エンディング後・朝からいちゃこら














 うらら














ふと目を覚ませば腕の中に感じる別の体温。


少し寒いのかもぞもぞと毛布の中を動いては


自分が一番落ち着く場所を見つけたのか


満足そうな表情ですやすたとただ静かに寝息を落としていた。


今は一体何時頃であろうか。


カーテンの奥がまだ薄暗い所から夜が明けてしまうにはまだ早い時間のようだ。


少し、肌寒いと思える秋の朝。


起きるのはまだずっとあとでいい。


まだ、起きてしまうにはもったいない時間帯だ。




「んぁ…」




喉の奥を鳴らしたような甘い声。


自分のじゃない、腕の中で長いまつげを伏せている彼女だ。


ほんの気持ち…起こしてしまわぬほど丁寧にそっと


肩から落ちてしまっている毛布を捲りあげてあげる。


そしてわずかばかり身を寄せると


彼女愛用のボディソープの香りが嗅覚をくすぐった。


香水のような独自の女性の匂いよりかは明らかに子供じみた石鹸の香り。


けれども気取らない彼女だからこそあっているとも思う。


白いシーツに渦を巻く桜色の髪に掠めるだけのキスをした。


彼女の大好きな優しい優しいキス。


昨日幾度となくしたそれとは正反対のものだった。


あれはあれで俺は好きだけど。


と内心呟いて首元の隙間からちらちらのぞくそれを見つけては


心の中の何かが満たされていくような感じがする。


ぬるま湯につま先から髪の毛一本までつかっているような。


または母親の腕に抱かれ明日という未来に胸を弾ませているような。


愛おしいという感情。


幾度となく自分の胸を満たしてくれるぬくもりに安堵する。


愛を注ぐと、応えてくれる。


その繰り返しが育むもの。


こんな時間がずっと続けばいいと思う。


こんな幸せな日々がずっと続けばいいと思う。


願いは夢に。


夢は未来に。




「未来はきっと明るいものだよね」




彼女は言って、笑ってた。


どこか遠くを見つめる褐色の瞳。


唇に乗せた微笑みがとても似合ってると思った。


同時に。


小刻みに震える細い肩を、守りたいと思った。




右肩にチクっとした小さな違和感を感じて瞼を持ち上げてみる。


まだ自分が見られているだなんて気付いていないらしい彼女は


何やら一生懸命に悪戯中のご様子。


動きを最小限にするという気遣いはあるものの


夢中になってきたのかそれすらおろそかになってきている。


ばれない様にそっと微笑み悪戯防止も含めて一気に抱きしめると


腕の中の犯人は肩をびくりとさせて動きを止めた。


身動き一つ取れない様に強く抱いているせいで


彼女の息遣いや鼓動の早さから動揺していることが分かった。


こういうとき、彼女は本当に子供っぽい反応をする。




「なーにやってんだ?」


「な、なにって…別に。ロックこそ、起きてたなら教えてくれたって…」


「誰かさんに起こされたんですよー」


「う…」


「あ、それに寝てるってわかってやってたんだな、さん?」


「や、その…」




ごにょごにょと口がごもる。


けれども責め立てるような口調ではないから


なんとかごまかしが効かないか思っている時の癖だ。


まったくずるがしこい奴だ。




「で、何してたんだ?」




ほんの少し許すように優しく諭して額に口づけを落とす。


すると腕の中の犯人は堪忍したのかぎゅ、と抱きついてきた。




「ちょっとね、真似してみたくなったの」


「…真似?」


「うん…あんまり上手くできなくて」




これ、と指さすその先を視線で辿ってみる。


すると寝る前にはなかった赤い印を見て


思わずにやけてしまうのを押しこらえる羽目になった。


右肩に小さな小さなキスマーク。


でもすぐに消えてしまいそうだ。




「キスしよっか。長いやつ」




目を瞬かせて顎を前に差し出す彼女。


OKのサイン。


俺は少しだけ身を起して口先の感触をしばし楽しむことにする。














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