エンディング後














 溶ける心














洗脳、というのだろうか。


はたまたマインドコントロールとでも言うのであろうか。


僕に「操りの輪」は通用しなかった。


発展を遂げた一種の文明とも言える機械をもってしても


完全なる支配には至らなかった。


けど。


それは機械だからの話で。


「人間」とはまた別の話で。


時間をかけて僕は少しずつ洗脳されていった。


ゆっくり、ゆっくり。


手のひらで氷を溶かすくらいの長い間。


じっくり、じっくり。


染められていった。


蝕まれていった。


――アイツに。




少し前にラジオからこんな話が流れているのを聞いたことがある。


とある家庭での話。


最近では日常化されているらしい「虐待」。


加害者と、被害者。


一般的に加害者は母親がなるケースが多いという。


原因となり得るのは育児ストレス、環境、逃げ道の封鎖、抱え込み。


環境が人を殺すとはまさにこのことだと思う。


そこで。


そこで司会者は問うた。


なぜ。


被害者である子どもは攻撃をされているにもかかわらず


母親を裏切らないのか。




(わかる気がする)




皆が表情をゆがめる中(特にカイエンが露骨だった)、


はぼんやりそんなことを思った。




(わかる、気がする)




なんとなく。


わかる。


ほんの少し目を伏せてそれ以上考えるのはやめることにした。


……どうせまたきっと引きずり出して来るんだろうけど。




「…、」




すばやく相手の懐へ。


体格の大きな巨人兵だが動きを見ていた感じ


中身はきっとない。抜け殻だろう。


物理攻撃が通用しないと判断した


考えるよりも早く体を動かし攻撃に向かっていた。


電気砲を、容赦なく体の中心部に叩き込む。


少し弾けるような音がして次にはもう動く気配さえ見せず、


ガシャンガシャンと抜け殻の鎧のみがくずれていった。


ふぅ、と緊張の糸を解く


割とすぐ近くでロックの声が聞こえてはふっと息を吐ききった。




「疲れたや」


「ん、お疲れさん。休んでるか?俺が引き受けた仕事だし」


「んー」


「…。任せるよ」


「そーする」




ん、と彼はいって何度見たって胸を鳴らせる笑顔を向けてくれる。


一時はそれがなんとも眩しく感じてついつい


目を逸らしてしまうことだってあったけど今はちゃんと微笑みを返せる。


自分の冷たく閉ざされた心もまたこうやって長い時間をかけて


彼色に染め直されているんだろうって思うと、なんだか気分が良かった。




「やっぱやる」


「なんだそれ」


「なんっか最近街にずっといること多かったから外に出るときくらい、ね」


「あー悪いな、なんか。そういやお前あんまりじっとしてるの好きじゃなかったのにな」


「美味しいご飯が食べられるならなんだって」


「わーわーあぁ、もう悪かったって!!」




依頼人からのお仕事は護衛だけだと最初は聞いていた。


しかし話を深く聞いていくとどうやらその奥で手を引いているものの存在が発覚し


迂闊に二人もウロウロすることができなかったのである。


そうやくそちらのほうが落ち着き、今はこうやって依頼人が研究している


サンプル集めに精を出しているわけだが・・・・・・。




お互い口は動かしつつもしっかりいただくものは頂いている。


抜け殻鎧の精魂。要は生きていた時の無念の気持ちが怪物化したこいつらの


命とも言うべき代物だ。依頼人はこの精魂にこそなにか特別なものが


あるのではないかと踏んでいた。


・・・・・・まぁ、そんなことは今の二人には関係のないことだったが。




「夜ご飯、シチューにしよっか。コーンクリームの」


「お、賛成。大好物」


「知ってる。たまには喜ばせとかなきゃかなーって」


「なんだよたまにはって」




ロックはそう言って呆れたように笑った。


今度はもいたずらっぽく笑みを返した。




「だって、離れて欲しくないからさ。飽きられないように、ね?」




面を食らった顔から一気に真っ赤になる旦那に胸が熱くなるのを感じていた。









 +









洗脳、というのだろうか。


はたまたマインドコントロールとでも言うのであろうか。


僕に「操りの輪」は通用しなかった。


発展を遂げた一種の文明とも言える機械をもってしても


完全なる支配には至らなかった。


けど。


それは機械だからの話で。


「人間」とはまた別の話で。


時間をかけて僕は少しずつ洗脳されていった。


ゆっくり、ゆっくり。


手のひらで氷を溶かすくらいの長い間。


じっくり、じっくり。


染められていった。


蝕まれていったものは。




「人間」によって。


また染め直せるんだなって。














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