Angel's smile
















静かに寝息を立てるに、セリスはそっと自分にかかっていた毛布をかけた――…















城下町サウスフィガロ 23.5















「すこし…。いやかなり驚いたな…」




テントから出てきたセリスの第一声はそれだった。


とさきほど交替し、見張りをしていたロックは彼女の声に「ん?」とたずねる。




「…。さんが寝てる…」


「………………………人は誰しも睡眠をとるもんじゃないのか?」


「否、さんは基本的に人前では寝ないんだ…」


いやいやいやいやいや……………はぁ?


「長く共にいる私の前でも座って眠をとっていたか…?」




噛み合いを持たない会話。


ロックはセリスの発言に、目を丸くして驚く。


けれどロックは、ナルシェのときのことを思い出し、そういえば…と呟いた。


セリスは安心しきっているのの寝顔を見つめて、


ほう、と安堵の息をついた。




「さん付けで呼ぶんだな…」


「まぁ…な」




呟くようにそういって、メラメラと燃える焚き火をそっと見つめた。









 +









あれはいつだっただろうか…。




来る日も来る日も戦戦。


終焉の無い戦い。


嫌気がさす。




それでも…


やるしかない。


やらなきゃこちらがやられる。




リアルなんてどうせ、弱肉強食だって…




そう思っていた。









さんに会うまでは…。









気付けばチョコボを南に走らせていた。


アルブルグからすこし離れた海沿い。


下を覗けば大きな波音が聞こえる。


おそらく“そこ”は深い。




考えなんて無かった。


痛いだとか、


冷たいだろうなだとか、


…死にたいだとか…


そんなこと、考えては無かった。




躊躇いなんて無い。











踏み出す足。




地にはつかない。




…宙へ




堕ちる―――――…………














… 助けて …
























ゆっくりと視界を広げると、体中に鈍い感覚が襲った。


「うっ」と声を零しながら重い身体を起き上がらせる。


段々とクリアになっていく視野にの姿を映してセリスははっと目を見開く。


物音に気付いたが振り返り、セリスと目を見合わせた。




「おはよう。どこか痛むところはあるか…?」




素っ気の無い口調でたずねる。


起き上がれる事を確認すると、今自身が座っている焚き火の元へと招いた。


アーマーやマントはいつの間にか外されて、近くに干してある。


の桜色の髪はすこし濡れて、頬に張り付いていた。


セリスは裏唇をかみ締めた。




「…何故、助けた!…どうしてっ」


「ん…?」




何でって言われても…と、は眉をひそめながら首をかしげる。


口元には苦笑の笑みが浮かんでいる。


はゆっくりとした口調で事の成り行きを説明した。




ドマ偵察の任務帰り、本当ならそのまま帝国へと向かうはずだった。


けれど、明らかに雰囲気のおかしいセリスがチョコボを走らせていくのを見つけて、


追いかけてきたと…。




「私が聞いているのはそういうことじゃ―――」




「“助けて”っていっただろ?」




「………っ!」


「だから助けた。それが助けた理由だ」




…満足?


くい、と口角を持ち上げる


そして、焚き火にかけてあった鍋のふたを開けて、軽くかき混ぜる。


鍋の中からは優しいコーンスープの香りがした。


しばらく沈黙が続くが、が空気を読んだのか口を開く。




「頼むからさ…飛び降りるならもっと低いところから降りて…」


「?…………あ!(は高所恐怖症…)」




おかげで、一瞬躊躇ったぞ?


と、からかうように言ってのどを鳴らして笑う。


セリスは俯きながら「怒らないのか…?」と聞いた。




「怒る…?何故?」


「だって、私は…っ」


「セリスのしたことは悪い事なのか?」


「…」




純粋な質問だった。


セリスはさらに顔を俯かせる。










「今、生きてるだろ…?」









結果オーライじゃん。


と、簡単に言ってのける


それじゃ、だめかな…?


と付け加えた。




地面にポタリと雫が落ちた。


一滴


また一滴おちて、


大地がそれを吸収していく。


はほう、と息を吐くとセリスに腕を伸ばした。


セリスはぬくもりを求めるように力いっぱいにしがみついた。




「ごめっ…なさい。…ごめんなさい…」


「何で謝るんだよ。何も悪いことはしてないだろ?」


「ごめんっ…なさ…」


「ったく…」




馬鹿だね、セリスは…。


呟くように悪態をつく。





っく、とのどを鳴らしながら泣き続ける私に、


さんは何も言わずに頭を撫でていてくれた。




久しぶりに触れた人のぬくもりがとてもいとしくて、


それがとてもすぐ傍にあったことに悔しくなった。




その後一緒に食べたスープはとても美味しくて、


冷えた身体を温めてくれた。




次の日さんと一緒に帝国へと戻る。


帝国を勝手に抜け出した私に対してのお咎めは無かった。


どうやら、さんが




「ドマ城偵察の報告を受け取りに来た」




などと、適当に誤魔化してくれたらしい。










帝国の兵器なんて、とんだ間違いだ。




さんを見かけるたびに私の中の考えは変わり始め、


一緒に組むようになってからは尊敬や慕いなんかの感情も芽生えていった。









日常は相変わらずだったけど、




それでも…




すこし、楽になった気がした。









 +









ばちっ、と木がはじけた。


隣でロックが大きな欠伸をする。




「明日にはナルシェだ…。あたりに獣の気配も無い…今は休もう」


「…了解」




セリスの言葉にロックは相槌を打つ。


焚き火の炎に砂をかけると段々と火が弱くなっていった。











地平線から朝日が顔を出したのはそれから数時間後…














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あとがき

まずはじめに…すみません。
これははじめ、番外編にしようかと思っていた話です
過去捏造しちゃってますが、当サイトではこれくらい軽いんですっ(問題発言だって)
ここまで読んでくださった方々、いろいろな意味でありがとうございました。
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