01. 今日はたくさん笑ったね















ひらり、


ひらり、




空を漂うそれをふわりと受け止める。


不意に伸ばした手の中に閉じ込めて、


は少しだけ微笑んだ。




雲間から差し込む春の太陽。


穏やかな陽気。


この世界の醜さをより一層引き立てる春。


平和に浸らしてくれる。


暖かい日々。




…?」




窓枠に腰掛、窓の外へと手を伸ばしていた自分。


それを見て不思議に思った彼は思わず声を投げた。


背中でその声を拾い、はゆっくりと振り返った。


金色の双眼が疑問符を映し出している。


の傍まで歩み寄って


の肩にそっとベージュのストールを掛けた。


ずっと窓際にいたものだから冷えないようにと気を使ってくれたのだろう。


彼女は胸元でそれを軽く抑えて、淡く笑んだ。




「エドワードさん。桜が、綺麗に咲いてますよ」


「ん?……あぁ、そうだな…」


「ふふ…無理に合わせなくてもよろしいのですよ?」




あからさまに気難しそうな表情をしたものだから、と


は言って再び外の景色を眺めた。


桜の咲く並木道。


ゆるりとカーブを描いて地平線まで延びる。


そんな遠くまで見渡せるこの村は自然にあふれかえっている。


は景色ではなく、


その平和な光景に目を奪われているのだった。




「体調、まだ悪いのか…?」


「…お蔭様で大分よくなりましたわ。…でもどうして?」




旅の途中に寄った村。


わざわざ村に立ち寄ったのはの体調のせい。


禁忌を犯しもともとからだの弱いのに加え


長旅の疲れがたまって、ふらりと立ちくらみをしていた彼女をみて


エドワードが問答無用で宿を取り、休暇をとることにしたのだ。


言葉では言わない不器用さんだが、


しっかりと彼女のことを気にかけてくれる。


そんな彼は、彼女にとって何よりも大切な人だ。




「少し、歩くか…」




気分転換もかねて、とエドワードは静かに呟いた。


あまりにもが外ばかり見ていたので


気を使ってくれたのだろうか。


は目を細めて二つの返事で肯定した。




「今日は暖かいですね、エドワードさん」


「…だな」




ひらり、


ひらり、


空を漂うそれをふわりと受け止める。


片方の手の中には桜の花弁。


もう片方の手の中には彼の指先。




両手の中の存在を大切にしたいと思った。














(2009/04/07) inserted by FC2 system