(エドワード)















 知り得る限りの幸せを















香ばしいベーコンの匂い。


焼きたてのバターロールパンにほんのり湯気が立つコーンスープ。


意識はまだ眠っていると言うのに空腹なお腹は正確に朝を伝えてくれる。


目を開けていない世界はまだまだ暗い。


まぶた越しにちらつく光はまぶしいけれどもそれももう少しの我慢だと納得させる。


まだかな。


もう少しかな。


あ。


足音が聞こえてきた。


ぱたぱた、と唆しい。


また階段でつまずく事はないだろうか。


ゆっくりくればいいのに。


だって。


これからはそんな時間、たくさんあるというのに。




「エド?」




少し息を切らして彼女――は部屋の中に顔を覗かせた。


視界をさえぎる瞼が彼女の姿を映さない。


五感の一つが消えた分聴覚がびんびんに冴え、


声や息遣いさえも聞き落とさない。


ほう、という優しいため息。


まだ眠っているのですね、という安堵と若干のあきれを含ませたもの。


わかるんだよ、それくらい。


見えてなくても。




「朝食ができましたわ」




普段と変わらぬ丁寧な口調。


やわらかい声質。


耳になじんだもの。


そっと歩み寄ってくる足音に耳を澄まして聞き入る。




「冷めてしまいますよ?」




ゆさゆさと軽くゆすられる肩。


ん…と口の中でこもったような声を出すとゆっくり視界を広げた。


窓から差し込む光がまぶしくて、思わず眉根を寄せる。


いとおしい彼女の顔がだんだん鮮明に見えてきて、ようやく朝を迎えた気がした。




結婚生活にも慣れ始めた今日この頃。


寝起きの悪いエドワードを起こすのがの日課になっている。


エドワードは自然な素振りで彼女の顎に手を添えておはようのキスを送った。


軽いリップ音の後の彼女のはにかみ顔を見て、


今日一日が始まるなんて、なんて幸せな事なんだろう。




「愛してる…」




だからこんな滅多に言わない台詞だって君の為に言ってみるんだ。














(何の変哲もない毎日が変わったのは、貴方のおかげ) (2009/06/06) inserted by FC2 system