(2021/06/05)(Web拍手掲載分)









 朝









ぱちりと目が覚めた。

気分爽快、おめめぱっちり。

仮に今任務の招集がかかってもものの数秒でスイッチが入りそうなほど気持ちのいい朝に自然と笑顔になる。

いつでもどこでも昼夜問わず寝ているイメージの強いだが、こう見えて昔から寝起きのいいのが自慢の一つだ。


ぐぅっと背伸びを一つすると隣で眠る寝坊助さんの前髪に触れるだけのキスを送る。

抱き枕のように腰に絡みつく腕からするりと脱出すると冷たいフローリングにそっと足を落とした。

寝ている彼を起こさないように出来るだけ静かにこっそりと。

そっとカーテンを開けると、朝が苦手な彼がうめき声に近い何かをあげた。

そしてまた再び布団の中へと消えていくのを背に感じながら、はふふっと幸せを噛みしめるように笑った。

気持ちのいい朝だった。


「スープは…うん、足りそう。あとパンを焼いて、卵焼きは甘いのでいいかな」


洗面と簡単な身支度を終わらせるとブラシを通した髪をくるりと一つにまとめは冷蔵庫を開いた。

今日は二人とも午前中はオフの日だった。

繁忙期を抜けいくらか仕事も落ち着きを見せてきた初夏。

隙さえあればすぐに任務を詰め込みたがるでさえこの調子なのだから、本当に呪いというのは気候や季節にも影響するものなんだなぁと思う。

忙しいの、結構好きなんだけどな。

なんて言ったら心配性の彼をはじめ同級生や後輩ズからの視線が痛いであろうからやめておこう。


「んーそろそろ買い物に行かないと」


冷蔵庫の中身を見て落胆する。

わずかながらの食材を手に取り、今朝のメニューを甘い卵焼きとトースト、そして昨晩の残りの具沢山ポトフに決めるとちゃかちゃかと支度を始めた。

コンロに火をかけ鍋を温め、トースターに食パンを二枚突っ込む。

いまだに布団から出る気配のない彼に「棘くーん」と台所から声を掛ける事も忘れない。


夜更かしするからだ。

最近はまったらしいユーチューバーの生配信を見だしたら止められなくなったらしい。

睡魔に負けて先に布団に潜り込んだだったが、結局眠ることは許されなかった。

続きも気になる、でもともくっついていたいというなんとも我儘駄々っ子が発動した彼に付き合い結局眠ったのは配信が終わった深夜の3時。

今日が学校だったら間違いなく彼は大遅刻を決め込んでいただろうなぁ。

朝が強いですら今日という日は8時からはじまった。


「棘くん棘くん、ちゃんお手製のとっても美味しい朝ごはんが出来ましたよー」

「…こんぶ、すじこ、高菜…」

「“狗巻棘は寝てまーす”ってしっかりばっちり言えてるのは起きてる証拠でーす」

「ツナツナ、明太子!」

「“チューしてくれたら起きれるかも”?」


代弁するように繰り返すと、彼は「しゃけー」と嬉しそうに言った。

ぎゅうと目を閉じ思い切り唇を尖らせ両手を差し伸べるそれは完全にキス待ちの姿勢。

いつも寝起きはうだうだの寝坊助さんなのに、調子がいいんだから。

普段はお互い死と隣り合わせの生活を送っているからこそこうして愛情いっぱいに迎えられる朝はいつだって特別だった。

バカップルも吃驚のいちゃつきようだ。

出会ったばかりの頃は彼がこんなにも愛情深くて甘えたさんだなんてわからなかった。

甘えられることは正直嬉しい。

そして彼の我儘を満たしてあげられることはこれ以上ない幸せだ。

いつもなんだかんだ「しょうがないなぁ」と折れてしまうのはの方だった。


「とーげくん」


彼が空けたベッドのスペースに片膝をのせて一歩体を寄せる。

寝起き特有の高い体温と彼の匂いに、体中の力が抜けてしまいそうになった。

両腕を広げてを迎え入れる彼に覆いかぶさるようにしてちゅ、と唇を甘く噛む。

一向に慣れる気配のない心臓がとくんと音を立てて跳ねた。

何度したってやっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。

なんならこれ以上の事だってたくさんしてるはずなのに。

変な顔してそうで恥ずかしいと抗議の声をあげてみても棘くんは私からさせようとするから意地悪な奴だと思う。

ほら、ちゃんとしたよ。

約束通り起きてよね、という意味を込めて睨むとお互いの前髪が重なり合うほどの至近距離で棘の目が優しく細められる。

あぁずるいなぁ。

私の大好きな棘くんだなぁ。

なんて見惚れていたのも束の間、くるりと視界は一変して立場は逆転していた。


「とーげーくーんー??」

「おかか?」

「だめ、ではないけど」

「ツナマヨ」

「…ん、もう」


また、スープ温めなおさないとな。

彼からの甘いキスが容赦なく降りそそぐ頃にはそんなことを考えている余裕もなくなっていた。














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