(2020.11.25)(呪術廻戦・狗巻棘・恋仲・同級生)









 指先に唇を









棘君の口元が好きだ。

勿論口元以外にも仲間思いなところ、優しいところ、ノリがいいところ、運動神経がいいところ、さりげなく気遣ってくれるところ、一緒に楽しんでくれるところ…。

彼にはここじゃ言えないくらいたくさん魅力があって、あげていったらきりがない。

そんな中でも彼の少し意地悪っぽく笑った時の口元が特に好きで、笑いかけてくれた時は聞こえるんじゃないかってくらい胸が高鳴るし、顔に一気に熱がこみ上げるし、釘付けになった視線が彼から離せなくなった。

呪言師の末裔である彼は普段制服やネックウォーマーで口元を隠して過ごす。

普段中々見ることが出来ないそこを、任務以外で多く見ることが出来るのは恋人である特権だと思ってる。


「高菜」

「あっ、ごめんちょっと考え事してて」


読んでいた雑誌から目を離してに向かって小首をかしげる棘には慌ててかぶりを振った。

まさか雑誌に目を落とすあなたに見惚れていました、なんて言えるはずもなくは誤魔化すように笑って、彼の見ていた雑誌に目を落とすように体を寄せた。

顔を寄せて覗き込むと、見やすいように角度を変えてくれる。


「何処かいいとこあった?」

「しゃけ」


特集されているデートスポットに目線を走らせながら問うと、いくつかある中から棘は「ここは?」と提案するように一か所を指し示す。

指の先には全面青に覆われたお花畑にはぱぁっと目を輝かせた。


「すてき!次のお休みお天気が良かったらどうかな」

「しゃけしゃけ」

「ふふ、よかった。めいいっぱいお洒落しちゃおっと」

「高菜」


今の時期はネモフィラが満開で見ごろのようだ。

は胸を弾ませながらネモフィラの花畑がある公園の紹介ページへと指を滑らせてページをめくっていく。

海の近くにある海浜公園であるそこは、電車を乗り継いで1時間と少しもあれば到着できるだろう。

花畑も、おしゃれしたも楽しみだと棘は目を細めて笑い、寄り添うとの距離を縮めた。

「いくら、明太子」

「うんうん、お弁当作ってピクニックもいいね。何か食べたいおかずある?」

「…高菜」

「おっけー。あんまり期待しないでね」

「お、か、か」


彼女の手作りお弁当だ…期待しないわけがない。

その意図を少ない語彙の中から汲み取ったは少し恥ずかしそうに頬を赤く染めて口元を緩める。

学生寮に住み、食堂が完備されているこの高専で彼女の手料理にありつける回数はあまり期待できない。

中でも、付き合うほんの少し前「作りすぎちゃって」と同級生や先生たちにおすそ分けしていたラングドシャケーキは絶品で、手作りの味とは思えずに驚いたのを棘は思い出していた。

呪術高専に来る前、中学時代は自分でお弁当を作っていたらしく、作る機会が無くなっただけで作ることは好きだったと話していた。


「こんぶ」


本当に楽しみ。

棘が呟くように言って、のパーカーの袖からほんの少しはみ出ている彼女の指をそっと撫でる。

そして愛しいものを見るように目を細めた。


の指が好きだ。

勿論指以外にも笑顔が可愛いところ、頑張り屋なところ、面倒見がいいところ、恥ずかしがり屋なところ、じっと目を見て話してくれるところ…。

彼女にはここじゃ言えないくらいたくさん魅力があって、あげていったらきりがない。

そんな中でも。

は指先を重ねて印を結ぶことで“縁結び・縁切り”の呪術を構成する。

彼女の無意識化で術が使用されることはないのだが、手の甲には輪の紋があり、それを隠すように袖丈の長い衣服を身に纏う事が多い。

普段中々見ることが出来ないそこを、任務以外で多く見ることが出来るのは恋人である特権だと思ってる。


「棘君、くすぐったいよ」


雑誌に置かれたままの彼女の指に自身のものを絡ませていくと、は堪えきれずにそう言った。

袖をめくるようにして出てきたのは華奢な指だった。

恥ずかしそうに顔を俯かせるをよそに、棘はその存在を確かめるように自身の指を滑らせていく。

男のものとは完全に違う、細くて、滑らかで、すぐに壊れてしまいそうな指。

こんな繊細な指で自分たちの階級以上の呪いだって拘束するだけの呪術を使うというのだから驚きが隠せない。


「棘君?」


庇護欲、愛しさがぶわりと棘の胸の中で溶けだしていく。

温かいもので満たされる感覚に陥りながら、気づけばネックウォーマーを下げ、彼女の手をすくいあげていた。

はっと息を呑むの視線が一点で固まる。

これから何が行われるか彼女が察したところで、見せつけるように、触れる。

ひゃ、との口の端からかわいい声がこぼれて、笑みを深める棘。


「もう、意地悪しないで」

「ツナ」


どうしよっかな、なんて返しながらもこんな可愛い反応を見せられたら止められるわけがない。

棘が薄く口を開くと、顔を真っ赤に染めた彼女の唇に自分のものを押し当てた。














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