(2020/12/02)(原作前・同級生たちの話)









 親しき友









「ん、今日ジャージか?珍しいな」


パンダが遅れて校庭にやってきたに声をかけると、彼女は半泣き状態で「もう、聞いてよー!」とその白黒のもふもふに詰め寄った。

天気は晴天、気持ちがいいほどの秋っ晴れ。

特段急ぎの任務もなく、同期たちは真希の呼びかけで校庭に集まっていた。

理由は至って単純、体力作りと組手稽古のため。

さらりと言い出した真希に対し、わかりやすく顔を顰めたのはで「うぐっ」と蛙を潰したような呻き声が聞こえたのは空耳ではないだろう。

そう、は接近戦が大の苦手。

ほぼ一般人並みの体力しか持ち合わせていない彼女は―本人に言わせれば呪術師はみんな体力オバケ―この時間が何よりも嫌いなのだ。


「いつもはなんだかんだ言い逃れする為に制服だってのに」

「その通りだけど。その通りだけど…っ!直球すぎるよパンダ君…」

「高菜?」

「そう、もう聞いてよ!昨日の任務で私の制服、呪いにべっちゃべちゃにされたのー!」


呪術高専の制服は自分の戦闘スタイルや好みによってオーダーできるところが魅力の一つだ。

の制服の特徴はなんといっても黒やグレーを基調としたセーラーっぽいデザインとチャコールカラーのカーディガンだろう。

真希の言葉を借りるのであれば「悟の悪い趣味が出過ぎだろ」だが、にとても似合っているし何より本人が1番気に入っている。

袖丈の長いだぼっとカーディガンは手の甲までしっかりカバーし、彼女の手に刻まれた呪印をしっかりと隠していた。

気に入っていただけあって、汚した時のショックは大きい。

呪いを払った時に飛び散ったものを頭から浴びた時はそれはもう商売道具の狐の面の下から声を大にして叫んでいた。


「クリーニング中ってわけか。ならまぁ…腹括るしかないわな」

「しゃけしゃけ」


慈悲も情けもないパンダと棘の発言に「うわーん」と声をあげて嫌がる往生際の悪い

一旦稽古が始まってしまえば、真希のお許しがあるまでそれは続く。

真希から一本取るか、パンダに投げ飛ばされないようにかわし続けるのか。

そんなの出来っこないとは喚いた。

呪術使いとなると己の階級以上の呪いだって払うことができるというのに、体術面が完全に足を引っ張っている。

本人だって自分の得意不得意は理解しているはずだが、こればっかりはどう頑張っても考えは変わらないようだった。


「とーげーくんー」

「おいおい、カレシに泣きつくな」

「すじこ、こんぶ」

「そんな冷たい事言わないでよぉ」

「観念しろ。俺たちだって嫌がらせしてるんじゃねーんだし」

「 おーおー、。やる気十分じゃんか 」


びくり、と面白いくらいにの肩が震えた。

背後に呪い並の唯ならぬ気配を感じ、は咄嗟にパンダの後ろに隠れる。

真希だ。

ニヤリと―それはもうそんじょそこらの呪いなら祓えるんじゃないかというほどの―微笑を浮かべる彼女は美人を際立てていた。

肩や腕を回して準備万端な彼女の前に、棘がの背中を押すように突き出すといよいよに逃げ場はなかった。

「うっ、棘くん…この恨み一生忘れないから…」

「お、おかかっ!」


理不尽な被害に抗議の声を上げる棘。


「安心しろ、棘。その甘ったれた根性ごと叩き直してやる」

「そんなこと言ったって…」


ちらり、と申し訳なさそうに真希を一瞥する

分が悪すぎる。

体術面においては、間違いなくこの場の誰よりも…否、もしかすると呪術高専の誰よりも劣ることを自覚していた。

中でも目の前の禅院真希は手練れ中の手練れ。

自分のレベルに合わせていては彼女の時間を割くだけで真希になんの得もないのだと口を尖らせる。

そんなことばかり考えていると、見透かしたように棍棒がごつり、と音を立てての頭を叩いた。


「毎回毎回、任務の度にエネルギー切れ起こしてぶっ倒れる友達を持つこっちの身にもなってみろよ」

「!」

「ツナマヨ」

「そうだぞー。真希も棘も、もちろんオレだって、無茶な戦い方ばっかするがいつか本当にどえらい目にあったらどうしようって思っちまうんだ。…真希なんかあれだぞ、この前が丸一日起きなかった時なんか“にもしもの事があったら私が許さねえ”って悟に突っかかって――」

「だぁー!もう、私の事はいいんだよ!って事だ、腹くくっちまえ。なんだったら狐の面つけていいぜ。のみ呪力使用もアリでどうよ?」


肩慣らしにぶん、と稽古用の棍棒を振るう真希には逃げられないことを察してしぶしぶながら腹を括る。

狐の面。

それはの商売道具で任務の時のみ着用する呪具の一つ。

術者の潜在能力を一気に高めてくれるそれは母から引き継いだもので年季が入っている。

そして、呪力の解放まで許可されるとなると。


「なにそれ、反則過ぎない?」

「ハンデだよ。ちょうどいいだろ?」

「…あーあ。真希ちゃんに喧嘩売られちゃった」


――売られた喧嘩はかわないと。

そう言って呪力を一気に解放させるは取り出した狐の面を顔に装着した。

そうこなくっちゃ、と身構える真希。

ぴん、と空気が張り詰め、そして弾けるように二人は大地を蹴る。

素直に気持ちを口に出せない彼女たちを見つめ、棘とパンダは目を見合わせるようにして肩をすくめた。














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