(2020/12/10)









 蝶々結び 序








人の縁というものは、なんて脆いものだろうと思う。

それなのに人はその縁を信じるし、縋るし、その反面それに傷つけられることもある。

それでも、再び前を向くことが出来るのは人は縁を結びなおすことが出来るからだろう。

目に見えない不安。

つながり。

確信を得られない戸惑い。

絆。

不明瞭な物。

縁。

つまりは――呪い。


は生まれて間もなくして、その縁というものを目で見て認識することが出来た。


それは例えるなら細く脆い糸のようなものだった。

体の一部分から伸びるそれは誰かや何かと結ばれ、複雑に絡み合い、時にぷつりと千切れてしまう。

良くも悪くも縁は呪いだ。

他の人には見ることのできない呪い。

それは人同士の繋がりだったり、愛着だったり、はたまた執着だったり、様々な形をしていた。


見えてしまうからこその障害もある。

目に見えてしまうのだ。

その人との縁が。

時にそれがを苦しめる枷になった。

目の前の相手を信じられない自分の弱いココロが憎くて仕方がなかった。


『 君、視えてるでしょ 』


彼は言った。

質問に答えるのであればそれはYESだった。

見えている。

彼と私を繋ぐ、結ばれた糸。

きゅっと固く、きつく結ばれた、そう簡単にはほどけることのない糸。


『 私の代わりに見守ってあげてって、君を託されたんだ 』


やっぱり、と思った。

それは自分が結んだものじゃないのも、子どもながらに分かっていた。


(お母さんが結んだんだ。私が、はぐれないように)


一人きりになってさびしんぼにならないように。


『 僕とおいで。君が自分から誰かと縁を結べるようになるまで 』


そんな母も、もうこの世にはいない。

呪いから庇って、私を生かした。

母は見えていたはずの縁よりも目の前の相手を信じられる強い人だったけど、私は違った。


『 一人は寂しいでしょ? 』


差し出された手をしばらく見つめ続けた。

一人は寂しい。

周りにどれだけ友達がいても、心はどこか見切りを付けてしまっていたから。


『 じゃあまずは僕と結ぼう。1からはじめようよ。よろしく―― 』


疑うよりも、信じなさい。

誰かとの関係にいつも落ち込んで帰ってくる私に、母はいつもそう言って聞かせてくれた。

疑うならまずは――。


手を取った。

結んだ手は少し震えてしまった。




初めて自分から結んだ縁は不格好なものだったけど、不思議と寂しさは胸から消えていた。














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