(2020/05/03)









 02 ― 同伴









「あら偶然。ご一緒しても?」


暖簾をくぐって店内に入ると、見覚えのある隊士の姿が二つ。

許可を得る前に座ってしまおうとすると、そのうちの一人は「おぉ、じゃねぇか」と席を譲り、もう一人は酷く顔を顰めて頬杖をついていた。


「…何勝手に座ってやがる」

「いいじゃないですかー。ご飯は皆で食べたほうが美味しいんですよ!」

「出た、の謎理論」

「日本の常識なんです」


釣り上がった目つきで睨んでくる風柱をあしらう様に手をひらひらとひらつかせると、は気にすることなく定食を頼んだ。

食えないやつ、とでも思われてそうだが睨む目つきは鋭くとも怒気や嫌悪感はないそれ。

それをわかっているからこそ、も持ち前の人懐こさを全開にしてニコニコとご機嫌だった。


「お前も近くで任務だったんだな」

「えぇ。今朝がた斬ってきました。まるで百足のような対の鬼でしたよ。カラクリがわかるまで斬っても再生、斬っても再生の繰り返しで散々でした」

「そりゃあ、地味にお前の観察不足なだけだろ」

「あら手厳しい。その通り過ぎてぐうの音も出ませけどね。…お二人も任務帰りですか?」


席を譲ってくれた音柱の方は何度も一緒の任務に同行させていただいている分面識もあり(何なら同じ雷派生の呼吸使いという事もあり相性がいい)、可愛い後輩が寄ってきたくらいにしか思っていないようだった。

遅れてやってきた定食を受け取り、ぱん、と両手を合わせて挨拶をする。

当の二人は食事も後半に差し掛かってはいたが、が話したがっているのを知ると食事の手を緩めてペースを合わせてくれているようだった。


「いいなぁ。も呼んで下さったらよかったのに」

「本当に変わったヤツだな。色んな事情はあれどお前ほど血気盛んな鬼狩りはそう多くねぇよ」

「またまたぁ。好戦的な戦闘狂で言えば不死川さんには敵いませんよ」

「おい」

「ははっ、こりゃあいい。稽古つけてやれよ不死川」

「上等だ。血反吐吐かせてやるよ」

「是非是非!わぁ、そのお約束が出来ただけでもここに立ち寄った甲斐がありました」


喧嘩口調のそれにもにっこり笑って「忘れないでくださいよ?宇随さんも聞いてますからね」と言うものだから、完全に毒気を抜かれた風柱は観念したようにため息をついた。

出汁の良く効いた味噌汁に口を付けると「そういえば」と思う出したようには再び話し出す。


「今回の新人は豊作だそうで、5人も通ったみたいですね」

「もうそんな時期か。根性ある奴が入ってるといいがなぁ」

「私の弟も入隊したんですよー。ふふ」

「…ヘぇ」

「(おっと、急に空気が…)不死川さんどうしたんですか?」

「あー、今その話題禁句だから」


空気に出やすい彼の周りの温度が2度は下がったような気がして、はきょとんと見返す。

笑いを堪えながらに伝えた宇随により一層不機嫌を露わにした。


「もー今度お詫びに甘味持って行きますから機嫌治してくださいよ。…あ、すみませーん」

「…いい」

「えぇ、そんな!これでも結構料理得意なんですよ」

「違う違う。不死川がの分、払ってくれるとよ」

「え、嘘。やった!不死川さんやっさしー!ご馳走様です」

「うるせぇ、店ン中で大きい声出すんじゃねェ」


出しかけた財布を一瞬で仕舞ったに宇随は「お前…」としかめっ面でを見る。

鬼狩りとして前線に立つときは女扱いされることを、とことん嫌うくせにこんな時は手のひらを返したように愛想のいい後輩をやってのけた。

世渡り上手と言えば聞こえはいいが、本当に敵を作らない人柄だな、と宇随は呆れた様に笑った。


「お前この後は?」

「それが、これから例の新人の子と合流して同伴しろって伝令が出てます。鬼狩り慣れしてない子たちの生存率を上げて場数と経験を積ませる目的だとか」

「…が同伴ねェ。最近やっとこさ甲に昇進したばっかじゃなかったか?」

「そうなんですよー!それでなくても最近出くわす鬼は厄介な奴ばっかで苛々してるのに、ついうっかり手を出してしまわないか心配で心配で」

「ま、そうなりゃ“あの時”の二の舞だからな。くれぐれも気を抜くなよ」

「…」


宇随さんの言葉に脳裏をかすめたのはトラウマともいえる記憶、情景。

フラッシュバックされて思わず咄嗟に言葉が出てこなくなってしまって、の目は一瞬鋭くなった。

宇随にとっても想定の範囲内の反応だったのだろう。

不死川だけは何かの癪に障ることを宇随が口走ったのだろうと察する程度に留まったが、かすかに空気が揺れたのを肌で感じた事には変わりない。

はにこり、と持ち直すと「もう、すぐ古傷を抉るんだからぁ」と手をひらひらさせた。

さっきの沈黙が嘘のように笑ってお礼を言うと、新人と合流するために道を行く。


(俺が言わなくても嫌というほどわかってるんだろうがよ)


そんな彼女の背中を見送って、宇随は思う。

は笑ってかわしていたが「俺からつつくのは野暮だったかね…」と頭を掻くとくるりと踵を返し二人は彼女とは別の道を進み始めた。














お気軽に拍手どうぞぽちり inserted by FC2 system