(2020/07/16)(Web拍手掲載夢)









 花冠









「…まぁ、善逸の事だから鍛錬の類ではないと思ったけど」


目の前に広がる光景とご機嫌に笑う弟弟子には呆れるようにして肩を竦めた。

呆れてはいるが、決して不快だの嫌悪感だのは微塵もないそれ。

しばらくお互い任務任務ですれ違いの日々で、本日10日ぶりくらいに蝶屋敷で再会してみたら、開口一番に「夜時間ある?」と先約を取られて今に至る。


「へへ、実はずっと前に見つけてさ。いつか姉ちゃん連れてこようって思ってたんだ…でも中々時間合わないから」

「各地で鬼が大量発生してくれてたおかげで私は稼ぎたい放題だったんだけど」

「またそんなこと言う。その度に怪我して帰ってこないか正直不安で不安で仕方ないんですけどぉ?」

「この仕事してたら怪我なんて絶えないし、死ぬこと以外はかすり傷って思ってるから平気だよ」

「やだもう鬼殺隊の鑑!その調子でかすり傷増やされたらついには俺の心臓がまろび出ちゃうからね!?」


姉ちゃんには要らぬ心配かも知れないけどね!と善逸は喚いた。

夜特有の雰囲気も相まって、より一層静かが際立つ林なはずなのにこんな時にでも無意識に鬼の気配を探ってしまう自分はとことん職業病だと思う。

念のためにと簪と日輪刀を身につけてきたが、この付近の空気は藤の花が咲く地域なのか鬼の気配は感じられなかった。

…まぁよくよく考えてみればこんないつどこで鬼が出てもおかしくないこのご時世、善逸がこの時間を狙うように自分を連れ出すわけもないのだけど。


「あ、ここだよ。だいぶ経っちゃったから間に合うか心配だったんだけど」

「間に合う?……あ」


開けた場所にやって来た。

木々が月の明かりを受け入れるかのようにその空間を作り出し、大きな月の光を沢山浴びて野原には見渡せるほどのシロツメグサが咲き誇っていた。

せっかくだからもっと近くでみよう、と善逸が手を引く。

彼にしては珍しく積極的で、よほどこの光景を私に見せたかったんだと温かいものが胸に広がっていった。


「わぁ」

「ね?ねっ?すごいでしょ!まだ咲いててくれてよかった?。あ、俺花冠作ってあげる。結構上手なんだよ?」

「ふふ、ありがとう」


器用な善逸は宣言通り手際よくシロツメグサを編んでいく。

時折足元の花を愛でながら、丁寧に編まれていく彼の手元を見つめる。

任務に出ては鬼を斬り、帰ってもまた次の現場へ向かう日々で思えばこんなにほっと息をつける暇なく働いていたことに気がついた。

自然と口元が緩んでいく。

善逸にもそんな気持ちが伝わっているのか始終ご機嫌なまま「待っててね」と花冠は最終段階に入る。


姉ちゃん、こっち向いて」

「ん」


ふわり、と花冠をのせてくれる。

さすが彼の見立て通りサイズはぴったりで、彼を見てみるとぽかんと口を開けたまま見惚れているようだった。


「綺麗だね」

「うん…とっても綺麗。天女さまみたい」

「もう」


大袈裟なんだからと鼻をつまむと彼はやっぱり照れるように笑った。


「来年もまた2人で来ようね」


そう言うと、善逸は「約束だからね!」と嬉しそうだった。

お互い明日どうなってるかわからないのが本当のところ。

けれどこの時だけはお互い一切そのことは触れなかった。

来年また、ここで2人で会いたい。

今はただ、こんな時間がずっと続けばいいのに…と胸に秘めることくらい許されてもいいだろう。









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