(2020/08/27)(30,000Hitお礼夢)
充電
私の弟弟子、もとい恋仲の立場も兼任することになった彼の独占欲は中々に強い。
もとよりわかっていた部分ではあるが、相も変わらず自分に自信がない彼。
けれども、家族というものに強い憧れを持つ彼は女性に対して過剰なほどに執着するきらいがある。
彼曰く高嶺の花であり憧れの人物でもある私(善逸ってば本当に大袈裟に物を言うんだから)と正式に恋仲になったのがつい先日の事。
それからは、道行く女性になりふり構わず求婚する光景はぱたりと消えたが、その分全ての矛先が私に向かっているのをひしひしと感じていた。
(重い、とは思わないけど)
彼の過保護なまでの心配症は今に始まった事ではないし、思っていることを感情のまま伝えてくれるのは正直嬉しい。
お互いに鬼狩りという立場上危険も多い。
任務に同行できる時は互いの安否をすぐに気遣うことが出来るし、それぞれ別の任務になったとしても帰る場所になるというのは心強い。
私自身も自分が思っていた以上に彼という存在が力まずに自分らしくいられる場所になっており、恋仲になってからはさらにその居心地の良さは増しているようにも思う。
しかしだ。
「姉ちゃんおかえり!大丈夫だった!?あの派手柱に変なことされてない?怪我は!?」
「ただいま。変な事って…稽古つけてもらってただけなんだから心配するようなことないのに」
「でもだってアイツ姉ちゃんには一目置いてるみたいだし…いやまぁ姉ちゃん強いから当然だけど。ずっと親し気だし、姉ちゃんも何かあればすぐアイツのところいっちゃうし…俺心配だよ」
「それはお互い基礎の型が雷の呼吸で、私が宇随さんの継子だから必然的に指導いただく機会が他より多くなるって話したでしょう?…それに、ちゃんと戻ってくるところは貴方のところなんだから」
「うぅ」
それでもなお善逸が「だって」だの「でも」だのといい狼狽える。
日常茶飯事だ。
私は、刀を今借りている自室に置いて、ふと考える。
後ろからついて歩くのは現在片腕を負傷していて絶賛療養中の善逸。
(心配を掛けたくてかけてるわけじゃないけど、どうしたものかしら)
彼の心配症は今に始まった事じゃない。
恋仲になった事で独占欲がさらに増して如実にそれが垣間見れるようになったのが原因だろう。
だとしても、男子の数が半数以上を占める鬼殺隊に所属し続ける限り彼の不安の種が解消されることはほぼ皆無に近いだろう。
心配しないで、私を信頼して、と伝えるのは簡単なようで違う気がする。
それを彼に伝えたならば、変な気を回して我慢させてしまうような気がするのは長い付き合いからの勘。
ならばどんな手立てが効果的だろう。
我慢させずに。
安心させられる、そんな手立て。
それでいてすれ違いの中でもやっていける様な、そんな…。
「あ」
「あだ。ちょっ、姉ちゃん急に止まらないで」
私がぴたりと歩みと思考を止めると自分の背中に善逸が衝突した。
咄嗟にごめん、と飛びのく彼のほうをくるりと向き直ると、善逸はぶつけたのであろう鼻頭を抑えながら小首をかしげた。
きょとん、という様子の彼だったが、私の音を聞いて何かを察したらしく何かを疑うような視線に変わる。
けれども、その善逸の表情が別の意味で変わるまで時間は要さなかった。
「痛くないの、こっちだっけ?」
「え、うん。…………え!?!?」
「あ、逆だった?」
ぎゅ、と両手で包み込むように握りしめると彼は全身稲妻が走ったかのようにびくりと体を震わせて飛び跳ねんばかりに驚いていた。
手なんてもう何度も繋いでいるはずなのに、彼はその度に初めての時のように驚きを返す。
どもるように「え、え、急にどうしたの」と目をちかちかさせる善逸に、はちゅ、とその傷だらけの拳に口づけを一つ落とした。
手のひらを通して振動を感じやすいは彼の心臓が激しく跳ねたのを聞き落とさなかった。
「善逸、すごい音」
「え、夢なの?俺もう死んじゃうんじゃないの?」
「…嫌だった?でも音は――」
「ちょっと!心臓ぶっ壊れちゃうから言葉にしないで!え、何、どういう状況なのこれ!?」
善逸は耳で、は唇で音を人以上に感知することに長けている。
長い付き合いの中でそれをよく知る者同士、普段何気なく感じているそれも改めて言語化されると恥ずかしさが勝ることもよく分かっている。
「ほら、私たちって合同任務もあるけど殆どが別任務だったり稽古だったり療養だったりですれ違う事の方が多いじゃない?だから不安にさせちゃうことも多くなるし、その分一緒に居られる時間って貴重だなぁって思って」
「…それがさっきのく、くくく口付けにどう関係するの」
「んー、だから、善逸のこと好きなんだぞーって思いを、離れてる間も無くならないように沢山伝えてみたんだけ――んんっ」
驚いた視界いっぱい映ったのは大好きな金色。
「…伝えるならこっちにして?」
首の後ろを引き寄せられたかと思うと、かぶりつくような口吸いに思わず声が出てしまった。
「ふふ、可愛い」
いつの間にやら追い抜かした身長差のせいもあって降りそそぐように、甘いそれが角度を変えて何度も続く。
思いがダイレクトに伝わってきてかっと顔が紅潮するのを、ようやく放してくれた善逸が物足りなさそうに見下ろした。
「…俺ってさ、結構欲深い人間だからすぐ足りなくなると思うんだけど」
「じゃあもっと補給する?」
「!…そんな可愛いこと言って、知らないからね」
さっきまでの頼りなさげな弟弟子の表情から一変して、想い人を見つめる男の人の顔にどくりと胸が高鳴る。
彼の耳には当然届いていたようで、やり返すように「、すごい音」と微笑む善逸。
その先の言葉を言わせないようには踵をあげてその口を塞いだ。
【善逸と結ばれた後のお話/甘々】
(おたこ様、リクエストありがとうございました)
(遅くなってしまって申し訳ありません!!)
お気軽に拍手どうぞ
ぽちり