(2021.01.17)(Web拍手掲載夢)
変わらぬ愛を、 前
「何でアイツあんなところで丸くなってんの?」
いつもはこちらの都合などお構いなしに忙しなく突っかかってくる同期の一人が、部屋の隅で丸くなっている様子を訝しげに見ながらもうひとりの同期に問う。
聞かずともわかるほどにしょんぼりと落ち込み、彼にしては珍しく周りにはドヨドヨとした空気まで漂う始末。
尋ねられた炭治郎の方は理由を知っているのか「あぁ」と呟き困ったように微笑した。
「俺は止めたんだが」
「今度は何壊したの?」
「さんがお休みなのに“稽古に付き合え”とかなんとか言って寝室に乗り込んだんでしょう。自業自得です」
「あ、アオイちゃん」
取り込んだばかりのお日様の香りたっぷりのシーツを抱えてアオイが通りかかる。
任務帰りの善逸に対し、「善逸さんお帰りなさい」と挨拶も忘れてはいない。
「…姉ちゃん具合悪いの?」
「うーん、俺も“そっとしといて”と言われてから近づいてないからなぁ」
「さんなら心配ありません。怪我もありませんし、お疲れなので休まれているだけです。だから決して部屋に立ち入らないように」
「…あ、運ぶの代わります」
早々と話を切り上げて立ち去ろうとするアオイ。
結構です、とピシャリと言い放つアオイに負けじと炭治郎がくっついていく。
そんな2人の背中を追いかけて、善逸は一人小首をかしげた。
おかしい。
そんな違和感を感じるのは他の人より長く彼女と付き合いがある証だった。
アオイの遠ざけるような物言いは過去にから言づけされているからか、はたまた別の人物からの入れ知恵か。
(まーた、背負いこんでないといいけど)
寛容で懐の広い彼女が他人を遠ざけるのはつまりそういう事。
善逸は少し口を尖らせてふっと息を吐くと、警戒の目を掻い潜る為にも深夜の決行をふと脳裏の片隅に決意した。
+
誰もが寝静まる深夜。
鬼が一番悪さを働く時間に、善逸はこっそり布団から抜け出して息をひそめて廊下を歩いた。
蝶屋敷の中でも客間は複数あり、毎回空いている部屋に通されるものだから固定された寝室というのはないのだが、善逸には聴覚がある。
慣れ親しんだ…その中でも特に自分が愛する人の音であれば間違う事なんてありえやしない。
――たとえそれが拒絶の音であっても。
「姉ちゃん、入るよ」
ぽつり、と断りをいれる。
声帯がぎりぎり震えるほどの微かな声だったが、部屋の主には十分届いたようだった。
外部からの一切の刺激、音、情報を遮断するかのように閉ざされた布団の壁。
「来ないで」
頭からすっぽり布団をかぶって絶賛拒絶モードの彼女からは哀しいかないつものような心温まる音は鳴っていなかった。
先程から自分に痛いほど叩きつける音は拒絶、不快、警戒、嫌悪といったものばかり。
「放っておいて」
伊之助はこの空気に当てられたんだな、と同期を気の毒に思いながら、善逸は構わずに一歩一歩距離を近づけた。
見えていなくとも音で、振動でその行為とその意味を知るだろう。
特に音という刺激に過敏になっている今であればなおさら。
「言っとくけど、俺はその程度の拒絶慣れっこだから、今更姉ちゃんの事嫌いになったりしないからね」
変わらぬ愛を、君へ。
絶対に見限ったりしないって約束する。
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ぽちり