(2020.03.05)(過去Web拍手掲載夢)
特別 前
『どうもはじめまして。私は。ま、適当によろしく』
善逸の姉弟子と名乗る少女は彼とは正反対で気さくで溌溂とした性格をしていた。
善逸がめそめそびくびくしているのに対して、は肝が据わっているのか鬼を目の前にしても臆することなく、なんなら待ってましたと言わんばかりにいつも凛と構えていた。
『いやぁ、鬼がお金に見えちゃうのよね。あら、知らない?階級が上がれば給金が上がるっていう仕組み』
鬼と聞くと死んでしまうと怯えて逃げ出す善逸に対しては喜んで前へ出た。
『死ぬ気は更々ないけど。死んだらお金貰えなくなっちゃうし』
こうなっては本当に同じ師に教わった姉弟弟子なのかと疑いたくもなったが、有無を言わせなかったのが白い布地に黄色い三角の羽織が彼のと色違いのそれ。
また、善逸もと話すときは駄々をこねながらもどこか信頼しており、彼女もまた、彼に対して気を許していた。
『あ、これが気になるの?可愛いでしょ、この鈴。私のお気に入りなの』
彼女は鈴の飾りがついた簪を常に身に付けていた。
はじめの頃は歩くたびにりん、りんと音が鳴ってその度に鬼に自分の居場所を知らせるなんて自殺行為だとばかり思っていたほど。
彼女が反響定位の能力を持っていると炭治郎たちが知ったのはだいぶ後になってからだった。
『反響定位?そうね…音に反射を利用して周りの地形や物を探知する能力の事よ』
音を鳴らして、その反射で空間や地形、人なのか鬼なのかを見分けることが出来ると彼女は言った。
『応用すればこんなことだってできる』
そう言っては炭治郎の肩に触れとん、とんと指先で振動を与えた。
そうして「肋骨やってんの?今までよく我慢したね」と声色を落とし、炭治郎はそのことに目を見開くのだった。
『少し我慢ね』
… 護の呼吸 …
刀を一切使わず、呼吸と手を使った治癒だった。
スゥっと息を整えたかと思うと呼吸と共に押し込まれる気、のような何か。
炭治郎に全集中の呼吸を促しながらの彼女の触れる部位に意識を集中すると、その個所がかっと熱くなり一気に血が巡った。
自然治癒力を高めてくれるというその呼吸は鬼を切る為ではなく、自身や仲間を援護する力に他ならなかった。
『早く強くなって私を守ってね』
ほう、と息を吐いて整えるは痛みが和らいだと驚きを隠せない炭治郎ににっこりとほほ笑んだ。
ぎゅっと善逸はその光景に眉根を寄せて(何ならお前ばっかりずるいと吠えてかかった)、を見た。
はいつだって心を落ち着かせる音を出す。
言葉だけはやれ金にならないだの、やれ死にたくはないだのと文句ばかり言っていたが(こればっかしは姉弟と言われても否定できない)、音はいつも優しかった。
(姉ちゃんは、いざとなれば自分なんて顧みずに仲間の事を最優先にするような人だ)
お金を求めていることも事実。
それを得るために死ねないのも事実。
その為に鬼殺隊に善逸よりも1年早く入隊したし、今もなお各地を飛び回っていると聞く。
それは、病気の両親の治療費を一生かけて払い続けなくてはいけないから。
だからお金を求めるし、死ねないと口癖のように言う。
まるで自分の役目を自分に言い聞かせる言霊のように。
『善逸』
でも。
他の誰よりも慈悲深くて温かい音を出す人だなって出会った時から思っていた。
『いつまでも泣かないの。泣いてたら誰かを守りたいって思った時、霞んで見失ってしまうよ』
言葉だけは突き放すようなそれも、耳に届いてみれば愛情深いそれ。
ぎゅうって抱きしめられることに酷く安堵した。
(姉ちゃんを、守れるくらい強くなりたい)
守られてる、その感覚を全身に感じて安心して、その安心をいつしか返したいって思うようになるまで時間はかからなかった。
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ぽちり