Cigarette message 00 ただいま









アイツの第一印象はと聞かれれば


「戦場で一番に死にそうなやつ」


と即答できるほどは忍びな不向きな性格をしていた。


少し垂れさがった目じりは眠たそうに感じるし、語尾がいちいち

伸ばして話すところなど彼女時間で何もかもが動いている。

遅刻、欠席はなかったが行動がいちいちとろいため、

同じ班のメンバーから何度も催促される始末。

繰り返しせかしても彼女は相変わらずのぼんやり顔で

頷くだけで、わかってるのかわかっていないのか理解しがたい。

その性格があり何度か先生や同期たちに反感を買うこともあったほど。


それくらい、よく言えばマイペース、

悪く言えば空気が読めないやつなのだ。


ってほんとそそっかしいのよねー。」


そう切り出したのは同じ班員のいのだ。勝気で口も達者だが

何よりかなりの友達思いな姉貴的存在だったりする。

その言葉に同じく班員のチョウジが「うんうん」と続いた。


「あの頃、ほんっと何もないところでつまづいてたよねー。」

「何年間も歩き続けた道ですら目を離せば迷子になっていたし。」

「甘味処に行った時なんかお団子喉に詰めてたね。」

「ほんっと鈍くさいというかなんというか…」


そう言っていのは深い溜息を吐いた。

向かいの席でそれを聞いて「めんどくせぇ」なんて考えてた時

アスマがこの場をまぁまぁと宥めた。


「まぁ、なんだ。アイツもアイツでいいところはあるしな。」


例えば、とここで問えばきっと尻込みさせるだろう。

それは流石に意地が悪いかと思いシカマルは目を宙に向けた。


いいところがないわけではない。

戦場で一番に死ぬタイプ、と言われながらも

彼女は俺と同じ時期に中忍に成り上がったほどの実力者だ。

普段あれほど空気が読めずに鈍くさい彼女でもやるときはやれるのだ。

なのに性格が邪魔をして評判といえば中の上といったところだろう。


「わぁ、もうみんな来てたんだー」


生ぬるい声。

眠さを帯びた瞳。

だぼだぼの衣と首に巻かれたストールが口元を隠し

さらに気の抜けたような風貌をしている。


「きてたんだー…じゃないわよ!遅すぎ!!」

「あははー。巻物読みだしたら止まんなくってさぁ」

「アンタ巻物と10班どっちが大事なのよ!」


むきーと怒るいのとにへらと笑い、凹む様子のない


「そりゃあみんなのこと大好きだもん。皆のほうだよー」


そんなくそ寒い台詞だって彼女ならさらりと口にしちゃうものだから

いのも感情のやり場を失って「次からは気を付けなさいよ」

の一言でこの場は終結する。結局のところいのもに甘いのだ。


遅れてきたのために隣をあけると柔らかく笑う彼女。

すっと距離が近くなり、シカマルはぎょっとした。


「ひでー顔な、お前」

「わー酷いこと言うなぁ。仮にも女の子なのにさぁ」

「あ?クマだよクマ。ぜってぇ寝てねーだろ」

「…。そういえば一昨日旅から帰ってきてから寝てない…かも?」


ガタ、とシカマルが席を立ち「送る、寝ろ」と言い放った。

腕を持ちあげられぶらーんとなりながらは慌てる様子もなく、


「食べてもないんだなぁ…」


なんて能天気にいうからぴしゃりとその場は固まった。

そこからは一瞬だった。

猪鹿蝶の見事な連携が光っていた。

周りがてきぱきと動く中とアスマだけが取り残されたように

そこに座っていた。に関しては「わーみんなすごーい」なんて

凝りもせずへらへらしてるものだから流石にいのから後頭部を叩かれていた。


ペシッ。


中身のない音がした。




 +




「食べたー。お腹いっぱーい」


お腹をポンポンと叩いてはぱぁあと喜びをあたりにまき散らした。

15歳には見えないあどけなさ。

お花をふりまくようなその雰囲気に全員分の飲食代を支払った

アスマは「そう言ってもらえると…」と浮かない顔を少し晴らした。


「アンタほんとそーいうなんとなく生きようとすんのやめなさいよね!」

「へ?」


間抜けた声をあげたの両頬を対極に伸ばすイノ。


「お腹すいたら食べるーとか眠くなったら寝る―っていう、

 感覚で生きるのやめなさいって言ってんの。」

「ふぁって…」

「だってじゃない!!」

「そーだよ、。欲望に忠実なことは大切だけど――」

『(お前は忠実すぎるけど…)』

「一日三食!これ、基本だから」


チョウジは咎めるでもなだめるでもなく穏やかに諭す。

ぼんやりしていると温厚さの波長が合うのか、

昔からチョウジが話すとも「そうか」と納得することも多かった。

伸びた頬をもみもみしながらは「心配かけてごめんね」といった。


「まぁ、なんだ。里の生活に慣れてけば自然と感覚も落ち着くだろ」


そう言葉にしてみて、ようやくが戻ってきたのだと

この場にいた10班全員が共感した。


相変わらずに会話を交わすものだから離れていた3年という

月日を一度忘れて、あの時に帰ったような感覚でさえいた。




『旅に出ようを思うんだ』




中忍試験を終え、すぐの頃だったと思う。

あまりに唐突にそんなことを言い出したのだから当時の俺は

あぁ、またいつもの散歩か何かだろう。

とさえ思ったほどだ。


まさかそれから3年も帰ってこないなんて、誰が予想しただろう。


「…アンタ、またすぐどっか行くんじゃないでしょーね」


すっと見やるイノ。

はその真剣な眼差しを受けて薄く目を細めた。


「だいじょーぶだよ」


とても曖昧さを含めた言葉だった。

それでも深くは追及させない重みをもたせていた。


「お別れはやっぱり寂しいしね」


うちはの写輪眼とはまた違う赤い瞳。

夜だとその色がより一層深みを帯びて見せた。

寂しそうにいった。


、お前明日からさっそく任務だってな」

「そーなの。でもシカマルも一緒だから安心だぁ」

「…ま、よろしく頼むわ」

「久々任務だから張り切らないとなー」


足引っ張らないように頑張らないと。と彼女はこぶしを握った。


「また皆で任務したいね」

「おおっ、10班復活って感じがしてきたな」

「ほんと、あの頃に戻ったみたいだね」

「皆すっごく風格出てるもんなー。僕も頑張らなきゃ」


はいつだってこんな風に周りを立てる。

人が喜ぶツボをよく心得ていると思う。

もしかすると幼き頃、知らない苦労があったのかもしれない。


「――ただいま、みんな」


は頼りなく笑う。

あの時のように、にへらと。




人一人殺せない、そんな笑顔で。














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