(2021.07.12)









 Cigarette message 10 勘









景色が猛スピードで後ろへと流れていく。

風を切るように木々の隙間を抜けながら、アスマを先頭にして3人は目的地へと急いで進んでいた。

さすが中忍以上…それなりに場数をこなした3人が揃えられているという事だけあって、今のところなんのトラブルもなく順調に事はすすんでいる。

なんならこのままいくと近いうちに暁と接触するのでは、と思うと自然と緊張が走った。


(もうすぐ…もうすぐ…)


顔に出さないようには一人、ふぅと自分を落ち着かせるように長く息を吐いた。

期待と焦りが入り混じる複雑な心境だった。

無意識のうちに奥歯を噛みしめ、手汗をかき、ごくりと喉が鳴る。

けれどもこんなところでミスを犯すわけにはいかない。


(この日のために何年もかけて準備してきたんだから)


は息を整えると、仲間たちに後れを取らぬように幹を強く蹴った。


目的の換金所まで間もなくといったところで、アスマと一気に距離を縮めたのはシカマルだった。


「アスマ先生よ。地陸って人は先生とどんなカンケーだったんすか?」

「何だ急に」

「ヘビースモーカーのアンタが2日もタバコを吸ってねェ。アンタがタバコをやめる時は決まって何かある時だからさ」


確かに、とは思い返してアスマの続きを待った。

いつもと違う、という変化を見逃さないのは流石シカマルだ。

先日突き放してしまったばかりだが、任務となれば話は別。

これほど組んでいて頼もしい仲間はいないだろう。


「心の中を見透かされてるようじゃ俺もまだまだ甘いな」

「いや、将棋指してるときは常にバレバレなんすけどね」


容赦ないシカマルの言葉に思い切り顔を顰めたアスマ。

そんな彼に「こんなの、三代目が無くなった時以来だ」と呟くようにシカマルは続けた。

太い枝をしならせ、思い切り蹴飛ばす。

周囲の様子に警戒しながら、残りの意識を全てかけて恩師のことを想った。

もし。

もしそうだとしたら今回の地陸奪還はそれ相応の覚悟の元で実行されていることになる。


「地陸と俺は守護忍十二士の仲間だった」

「…」

「それって、シカマルとチョウジみたいな仲って事ー?」


が重い空気を晴らすかのように言うと、アスマは「そうだな」と口元を緩めて頷いた。


「そしてお前ら2人の今の関係とも似てるな」

「えー僕たちみたい?」

「…」


とぼける様には聞き返すがシカマルは何かを察したのか深くは追及はしかなった。

ただそのかわりに「禁煙なんて、そう長くは続かないもんっすよ」と余裕なさげに吐き捨てるとアスマはニヤリと教え子二人を見やっていった。


「確かに今までがそうだったしなァ。シカマル、お前が心配してくれるのは嬉しいが、別に地陸の事で禁煙したわけじゃないよ」

「…」

「そんな事より“暁”は地陸をやったほどの奴等だ。相当な能力を持っているはずだ。気を抜くなよ」


一気に恩師から隊長の顔つきに戻ったアスマの一言に、気を引き締めるように口を引き結んだ。




 +




まず一人を潰し、それからもう1人を拘束する。

アスマがまず相手の気を引き陽動となり、相手の隙をついてシカマルが影縫いでが陽遁で拘束、そして動きを止めたところでアスマが仕留めに行くという流れだった。

本来であれば陽動を担当するのはアスマではなくのほうが名前が上がる。

しかし、この戦略を発案したのはシカマルであった。

これをこの隊の“頭”でもあるシカマルが話した時、彼はいつも以上に仲間の反応に注視していた。

ひとつは作戦や動線について内容をきちんと把握し、自分の中に落とし込んでいるのかどうかの確認の為。

そしてもうひとつは自分の役割を正しく理解し、飲み込んだかどうかを見るため。

今回特にシカマルが細心の注意を払っていたのは後者のほうだった。

アスマそしての表情をそれぞれじっと見つめて反応を見る。


(…さすがにこんな揺さぶりには乗らねぇか)


作戦公表時にちょっとした細工をしていたのだがそれに二人はなんの変化も見せずいつも通りの反応を返してよこした。

2人とも二つ返事で条件を飲んだのだ。

なんの問題もないはずなのに何か引っかかりを覚えてしまうのは長年の付き合いがそうさせるのかもしれない。

この胸につかえる違和感の正体に何と名前を付けようか。

幼馴染の勘。

胸騒ぎ。

なにか引っかかる、という名前のないざわつきで心地が悪かった。


「なに、シカマル」


嵐の前の静かさ。

間もなく暁も動き出すだろう。

残された時間も限られている中、気づけばシカマルは答えを求めるようにの腕をつかんでいた。

振り返り際になびく茶色いくせっ毛。

いつもと変わらない、気だるげで眠たそうな目が真っすぐにシカマルを射抜く。


「――何を企んでる?」


短く言葉を返してみるが、ボロは出なかった。

いつもはあれだけやかましい表情が今はやたら落ち着きを見せていて薄気味悪い。

何かある。

それだけは確信が持てるのに肝心の“何か”が見当もつかない。

直接仕掛けてみたものの、将棋で一度でもシカマルの予想を上回った相手が尻尾を出すはずがなかった。


「任務に差し支えることは何も」


選び抜かれた言葉だとすぐに分かった。

咄嗟に、いつの日に交わした、


“ 今はまだ話せないんだ ”


という言葉が脳裏でリフレインした。

悔しさ。

じれったさ。

これを解消するにはまだ待つしかないと突きつけられる。

言わないんじゃない、今はまだ言う時ではないのだ。


喉で止まる言葉たちをごくりと呑み込む。

その様子をは目を逸らすことなくじっと見つめていた。


「全部終わったら」


ぽつり、とこぼれた言葉に全神経が集中した。

このことに一番驚いていたのは発言したばかりの本人だった。

無意識に口走ってしまったようで少しバツの悪そうにしながら、ゆっくりとは続けた。


「 無事に生きて帰れたら、僕の告白聞いてくれる? 」


その時見せた一瞬の表情が妙に脳裏に残った。

むせかえる程の違和感を押し堪え、シカマルはなんとか「あぁ」と答えを返した。













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