(2021.09.27)
Cigarette message 11 犠牲駒
行くぞ、とアスマの低い声が頭の奥で反芻した。
時間にして瞬き一回分。
それだけの時間ではそれまでのすべてがなかったかのように神経を尖らせ全身で目の前の物事に集中させる様に身構えた。
(必ず、兄さんの心臓を取り返す)
アスマからの伝達を脳に届けるとすぐに指先は陽遁の印を結んだ。
視界の片隅では“目的地”から出てきたばかりの暁の男にアスマが手裏剣で襲撃しているところだった。
息を呑むほどの一瞬の事だったが、勘のいい男はすぐに鎌のような形状の武器を振り回し、臨戦態勢を取っている。
ブン、と大きな音を立てて空を切った大鎌は真っすぐにアスマに向かい、致命傷を与えようと頭上から落下した。
それを紙一重でかわしたかと思えば、大ダメージを受けたのはアスマではなく男の方だった。
「遅ぇよ」
―― 影縫い
―― 陽遁 血吸イ鋏
取り出した種にたっぷりと自身のチャクラを押し込めると種は一気に芽吹き、鋭利な鋏の形状となった。
あらかじめ分身をしていた片割れと対になるようにして男を囲い、双方向から容赦なく心の臓を貫いた。
突き刺した部分から吸い上げた血液で鋏の刃部分はすぐに赤黒く染まっていく。
「まずは一人」
アスマが呟く。
仕留めた、という確かな手ごたえ。
大量の血液を吸い上げた鋏の蔦部分からはみるみるうちに花開くはず…それなのにいつまで経っても蕾は開花することはなく、はすぐさま異変に気付いた。
「ハァー痛って…何だてめーら」
「どういう事、心臓貫通してるのに」
「それに何だこの草…グリグリすんないてーんだコラ」
「…不死身か」
力で敵わない分をチャクラでカバーし無理矢理その体制のまま押さえつけるがこのままでは時間の問題といったところだった。
吐き捨てるように言ったこやの言葉に男はぎょろりと視線だけをに投げて「見りゃわかんだろ、お嬢ちゃん」と何食わぬ顔で言い放った。
まるで貫いた心臓のけがなどなかったかのように。
「はぁ、まじかよ。あんなクセー換金所にまた行かなきゃなんねーのかよ」
「…!」
「(地陸)」
「オレ達は木の葉の忍びだ。お前ら暁を拘束もしくは抹殺するよう命を受けてきた」
暁と言えば2人一組で行動するのが主なスタイル。
それを見越して片方を完全に封じてからもう片方を仕留めに行く算段だったが一筋縄ではいかなかったらしい。
心臓を貫いてもなお生き続ける不死身となるとの攻撃もシカマルの影縫いも現状無力であることが証明された。
2人が表情を曇らせる中、アスマはチャクラ刀を両手に構え臨戦態勢に入る。
「おめーら、狙う順番を間違えたな」
「もう一人はどこだ」
「――!?」
「シカッ――」
「、下がれ―」
アスマが問いただそうとした一瞬、爆音が響いてもう一人の暁の男がシカマルの背後を取っていた。
ゴフッという建物が崩れる音と爆風に巻き込まれながらもシカマルは何とか敵の攻撃を回避したが影縫いの術は解け、いとも簡単に敵の拘束を無にしてしまう。
アスマはシカマルの援護の為に体を割り込ませ、は分身を解いて安全地帯へと一気に下がった。
「やはりあの真ん中…珍しく金に縁があったな、飛段」
「角都…てめーは手ェ出すな、こいつらオレの儀式用だ。金はてめーにやる」
「それならいいだろう…ただ気を抜くな、死ぬぞ」
「だからそれを俺に言うかよ。殺せるもんなら殺してほしーぜ」
まぁ、無理かァ?
飛段と呼ばれた不死身の男はの鋏をぶちぶちと引き抜くとそこからぼたりとこぼれ落ちた血だまりと足で踏み、地面に環状の模様を描いた。
マスクで表情が全く読めない角都という男の動きも読めず、一瞬の油断も許されない空気感の中、アスマが2人に指示を出した。
「俺が突っ込む。隙をついて不死身男を影縫いで縛れ、シカマル。少しの時間でいい、すぐに首をはねて動きを止める」
「それじゃリスクが高すぎっすよ、アンタらしくない」
「…陽動なら僕が適任だろアスマ。2人でなら…」
「わからないのか!それが今打てる最善の手だ!奴らは俺よりはるかに強い…!、お前はもう片方の暁に気を付けつつシカマルを援護しろ」
「…わかった」
「“敵陣突破の先兵”だ。たまにはこういう指し方も出来ないとな」
――犠牲駒ってか。
シカマルの脳裏にあの時の会話が蘇る。
“棒銀”なんてアンタには向いていない、とあの時と同じ言葉で返せば「ただの捨て駒にはならねーよ。お前らがいるんだからな」とアスマは言った。
その言葉にシカマルもも教え子ではなく、同じ戦場で戦うものとして身構えた。
―― ギュイィィィイン
閃光のように一閃。
光が弾けてあたりに金属音が響いた。
アスマはチャクラ刀を、そして飛段は大鎌をぶんぶん振り回して次々と攻撃を繰り出した。
砂煙をかき分けるようにして目を凝らしシカマルは飛段の影を捕らえようと影縫いを伸ばす。
も惜しみなく陽遁を使い草木を伸ばすことでシカマルの影面積を増やし、助力する。
「アスマ!!」
「くっ!」
投げ飛ばされた忍具を払いのけようとした時だった。
3つの刃がついた鎌の一つがアスマの頬を抉る。
幸い咄嗟の回避のお陰で致命傷は避けられたものの近接が厳しいことを悟るとお得意の火遁で一気に広範囲に切り替えた。
飛段は回収した鎌の先端にぺろりと舌を這わせ、アスマの攻撃を回避するどころか自ら飛び込むようにしてあの環状の模様の中に戻っていった。
爆風で視界が一気に悪くなる。
2人はどうなったのかと状況理解の為に目を見張る中、飛段の声が響いた。
「いてーだろ?なァ…?裁きが下ったな」
目を凝らしたそこに映し出されたのは今までと様子の違う飛段の姿と、右腕の火傷に苦しい表情を浮かべるアスマの姿だった。
お気軽に拍手どうぞ
ぽちり