(2021.10.01)
Cigarette message 12 打開策
「いてーだろ?なァ…?裁きが下ったな」
突然の事に目を疑った。
飛段の大鎌による攻撃から致命傷を裂け、忍術を繰り出したのはアスマのはず。
それに、あれだけの広範囲の火遁をもろに浴びたのは飛段の方。
それなのになぜアスマだけが表情を歪ませて苦痛に耐えているのか。
「すでにてめーはオレに呪われた。これより儀式を始める。――さアァ!俺と一緒に最高の痛みを味わおーぜェェ!!」
無茶苦茶いてーから覚悟しろよと吠える飛段。
人の肌が焦げる匂いが2人の元にも届き、思わず眉をひそめた。
唐突に五感に訴えかけられる“仲間の負傷”。
死、という直結的な連想。
二人は警戒を緩めることなく、打開策を得るため死角からの情報収集に徹した。
(アスマの火遁は間違いなくくらってた。受けたダメージを跳ね返す系かな)
(いや、アイツの右半身服が燃えてるし模様のせいで見えづらいが火傷跡も見える)
(だとすると――)
たどり着いた仮説は同一のもの。
しかしそれを立証するためにはリスクが必要だ。
埒が明かない、とアスマは刀のチャクラを変化させて間合いを伸ばして飛段との距離を一気に詰める。
振りかぶり、刃先が飛段を捕らえる――寸前のところで飛段は自身の左ひざに杭を突き刺した。
「!――ぐあっ!」
「ってぇだろォォ!」
仮説が確信に変わる。
飛段が突き刺したのは左ひざ。
そして同刻、アスマも左ひざを抑え込むようにして倒れ込んだのだ。
痛みが、共有されている。
「急所はそんなもんじゃねーぞォ!くく、だがあの痛みは最高だ!他人が死ぬときの痛みが俺の体の中に染み込んでくる痛みを通り越して快感に変わるゥ」
「アス――」
「っと、邪魔すんじゃねーよ、お嬢ちゃん――それとももう終わりにするかァ?なァ」
「シカ!物理じゃダメだ!影首縛りで――」
「もうやってる!」
相手の口調、行動パターンからその言葉がはったりかどうかは容易に想像が出来た。
そしてそれはその先の最悪な結末も連想させる。
(アイツは絶対にシカマルが止めてくれる)
杭を振りかざしたところで、シカマルは印を結び飛段を拘束するべく影首縛りを使った。
も咄嗟に草分身を生み出し、角都対策とシカマルの護衛に1体を残しアスマの元へ
と一気に距離を詰めた。
(大丈夫、“種”はまだ予備がある。何かあっても僕が必ず助ける)
杭の先端が大きく宙を切り、風切り音と共に真っすぐ心臓のある部分へと向かう。
一刻の猶予も許されない中、先端が皮膚の表面を軽く抉ったところで動きはぴたりと止まった。
シカマルの影が手の形となり飛段の右手にしがみついてその動きを押さえつけていた。
すぐにでも振りほどかれそうなそれを必死に持ちこたえるシカマル。
完全に飛段の動きが止まったことを視界の隅で確認しながら、はアスマの左足に医療忍術をかける。
「」
「本体はシカマルのとこに残してるから平気。先生はこれからの対策を」
すまん、とアスマが言う。
医療忍術を施しながらもその顔に余裕がないのはシカマルの影首縛りの持続時間がそう長くはもたないことを知っていてだった。
「長引くようなら俺もやるぞ…大金を逃すわけにはいかないからな」
「てめーは引っ込んでろっていったろーが角都!俺一人で十分だぜ!」
さすがに焦りを感じ始めたのか飛段は噛みつくように言った。
仲間割れしてくれているならちょうどいい。
アスマの元に駆け付けたは全神経を集中させて傷口の回復に努めた。
(貴方は絶対僕が死なせない)
「…!」
そんな心の声が、まさか言葉になっているなんて今のには到底知る由もなかった。
「行くぜ、アスマ隊長」
シカマルの自信に満ちた声が響く。
誰が見ても崖っぷちなこの状況で、彼の存在が頼もしく感じた。
+
ズリ、ズリ、とシカマルが影首縛りを使ったままの状態で後退した。
つまりそれは拘束した対象である飛段にも影響を及ぼすという事だ。
「あの地面に書かれた妙な図から奴を外へ引きずり出す。そうすりゃ奴の術…呪いも解ける」
発言、性格、口調のパターン。
身に付けているものから行動パターンの把握、もろもろの行動の意味と行動と行動の関係性。
彼の観察眼をフルに発揮して導き出した答えはそれだった。
「アイツのでかい武器…鎌が三つもついてる。ありゃ手傷1つ負わせられればそれだけで確実に相手を殺すすべを持ってるって事だ」
そして与えた手傷と呪いの関係。
それは。
「血だ」
「このガキィ…」
「アンタ、わめきすぎなんだよ」
「てめー!後でギタギタのズタズタのグチャグチャにしてやるぜ!」
「後なんてねーよ!!――出たぜ!」
「よし、呪いが解けたか確かめる!」
飛段の全身が環状の図形から完全に抜け出した。
手裏剣を真っすぐに放つと、それは飛段の耳をかすめ、そして同時にアスマの耳は無傷なことを証明しする。
シカマルは一気に手印を組み替えて物理攻撃の影縫いを使い飛段の体を今度こそ拘束した。
「もうこれが限界っすよ。もう持ちそうもない」
「よくやった…シカマル」
アスマはチャクラ刀に再びチャクラを流しいれた。
鋭利な武器となったそれは迷うことなく飛段の首を狙う。
形勢逆転の不利な状況に「手ェ貸せ!」と吠える飛段の声に余裕などなかった。
「コラ!!さっさとしろ!」
「…だから気を抜くなと言ったのだ」
――
一閃。
次の瞬間ごとりと音を立てて頭部が地面に叩きつけられていた。
膝から崩れ落ちるシカマルをが支える。
ぜぇはぁと肩で呼吸を繰り返すシカマルに「ナイス」とだけ言うと「へっ」と強がりが返ってきた。
状況は一転した。
誰もがそう思った。
思っていた。
「手助けが欲しければもっと早くに言うべきだったな」
ぎょろり、と胴体と離れたはずの頭部から視線が動いた。
首を落としても死ぬことのなかった不死身人間を前にして3人は言葉を無くすしかなかった。
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