(2021.10.04)









 Cigarette message 13 最悪な結末









半ば倒れ込むように膝から崩れ落ちた俺をは寄り添うように肩を支えて労いの声を掛けた。

その時感じた妙な感覚。

だが、それが“何か”なのはわからなかった。

酸素の足りない脳は上手く言語化することができず、そのモヤモヤは不死身人間という新たな情報を前に胸の奥底に押しやってしまったのだ。

違和感。

妙な感覚。

見逃し。

後悔。


冷静な頭で考えればすぐに気付けたような些細な違和感を、なぜあの時俺は見落としてしまったのだろう。


俺はこの時、彼女の異変を深く追求しかなった事を一生後悔することになる。




 +




「むちゃくちゃ痛ぇぞコラァ!!首なんか斬りやがって!超スーパー激痛だコノヤロー」


飛段は角都に髪を掴まれた状態でそう吠えた。

勿論そこから下は先ほどアスマによって完全に両断されているために倒れたままだ。

根元からは夥しいほどの血液がどっぷりと水たまりを作っていて、本当にそれでも生きているのかと目を疑ってしまう。


「お手上げじゃん、こんなの」

「あの状態で生きていても行動を起こす体と繋がってなけりゃ術も無意味。不死身でもああなりゃなにも出来ねぇ」

「確かに」


首と体が完全に離れて切っていても死ぬことはない不死身。

人間、こうも連続して驚くことが続くと感覚がマヒしてくるのだなとは脳裏の片隅で場違いなことを思っていた。

うっと視界の端でシカマルが呻き、術の多用によるスタミナ切れを起こしているのが映る。

相手は残り1人。

先程の飛段との戦闘でシカマルはもうしばらくは歩くことも出来ないだろう。

しかしの治療により傷口を塞いだアスマ、そしてこれまでほぼ戦闘に携わっていないが残っている。

ここでもう一人も完全に仕留めに行くか、それとも引くか。

対局する2つの選択に迫られ、アスマとは慎重な姿勢を見せた。


「甘いな」

「…ッ!」

「ぐあっ!」


ひゅ、と近くに風を感じたと意識したころには暁の衣がもうすでに間合いの内側まで来ていた。

角都の一撃に何とか反応は出来たものの、アスマとの二人は最小限の受け身を取ったのみでそれぞれ別方向に吹っ飛ばされてしまった。

今まで体力を温存していたは態勢をすぐに整えると陽遁を使い戦闘に備えて蔦を蔓延らせて間合いを取る。


「ほう、の者か」

「……」


角都がを一瞥してそう言った。

はそれには答えず、角都の動きを細心の注意を払って観察する。

アスマからの指示とは異なる動きだが、仲間を護る事を最優先とするならばと己の役割を全うしようと動いていた。


「一度手を貸せと言った以上ここからは俺もやる」

「チィ…わかったよ」


飛段の胴体と首との切断面を合わせるようにすると、角都は腕から伸びる黒い紐を使って見事に縫い留めた。

数秒もしないうちに頸は元の位置にくっつき、今までの戦闘がほぼ無意味なものとなる。

その人間離れした光景に今自分たちが戦っている相手の格の違いを思い知らされた。

は暁の動きを十分に警戒しながら自分たちの立場の悪さに顔を歪めるしかなかった。


「儀式もそうだがお前は戦闘も話もとにかくタラタラ長い。賞金首はお前がやれ、あのの娘は俺がやる」

「…」

「どうやら俺に用があるらしいからな」


だけに聞こえるようにして角都が言う。

ごくり。

心臓の音がバクバクと音を立てて息苦しい。


(こいつが、)


アスマやシカマルにこのやり取りが聞こえていない事を願いながらはスカーフを持ち上げて口元を隠す。


―― 陽遁


印を結ぶ。

丁寧に。

迅速に。

この日のために何度も繰り返してきた。


(こいつが兄さんの心臓を)


木の葉のマークの額当てが日の光を反射させてきらりと一瞬光って見えた。









の陽遁による牽制を視界の端で確認しながらも手負いのアスマはどうにか飛段の攻撃をかわすことに必死だった。

医療忍術で火傷の痛みは緩和し、足の刺し傷も傷口は塞がり止血された状態であるが重症であることには変わらない。

と対峙している角都という男の能力が全く未知数な中、下手に連携を取る事も出来ないこの状況。

アスマはチャクラ刀の間合いを出来るだけ伸ばして自身の動きを最小限にとどめながら飛段の攻撃をかわすのが精いっぱいだった。

杭による攻撃をチャクラ刀を振り回すことで間一髪のところでかわす。

そこで畳みかけるように背後から三つ鎌が飛んでくるのをシカマルからの助言もあり何とか回避した。

はずだった。


「そう何度も同じ手を――」

「ククッ…同じじゃねーよバ―――カッ!」


三つ鎌は身をかがめることで回避した。

しかしその鎌は勢いそのままに真っすぐ飛段の胴体を横一直線に貫いていた。

その場にいた全員が目を見張る。

ぞくりと背中に嫌な汗をかく。

最悪の光景が脳裏にべったりこびりついて離れない。

地獄のような気分のまま飛段の足元に視線を下ろすと、彼はあの環状の図の中にいた。


「ぐふっ、ゲホッ、グホッ」

「やっとあの痛みを味わえる…。てめーを殺す痛み」

「やめろ!」


アスマが腹を抱えて膝から崩れ落ちた。

とどめを刺すために突きつけられるのは自身の心臓。

つまり――アスマの心臓。

何とか“最悪の結末”を回避しようとシカマルが動かない体に鞭を打って地を蹴る。

今の今までシカマルについていた方のは口を手で覆ったまま動かない。


「 ―― 」


の唇が何かを紡いだ。


「交渉成立だ」


角都が言った。

それは最悪な結末だった。














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