(2021.10.05)









 Cigarette message 14 最善策









―― 陽遁 蔦風車


角都とたった今まで対峙していたの術が飛段を取り込むようにして押さえつけ、拘束する。

蔦の先に繋がるのはの右手――腕の傷口に直接植え付けられている――から寄生する植物だった。


!」

「…早く、アスマの傷を塞がなきゃ…」

「バカ、お前だってそんなこと言ってる場合かよ」

「僕は平気」


アスマの絶体絶命を救ってくれたという興奮と、彼女の安否を気遣う二つの想いが声に乗った。

それもそのはず、目で見てわかるほどには憔悴している。

血を吸っているからか付け根の部分は赤黒く変色しており、その犠牲の対価もあってか男一人を一時的に拘束することが出来た。

その分チャクラや体力の消費も激しくは俯いたまま肩を何度も上下させて呼吸を整えた。

そして、ふらふらとした足取りのまま敵に構うことなくアスマの元にたどり着き、治癒をはじめる。

まだ戦闘中のはずだ。

それなのに、なんで堂々と背を向けて治療を…?

そこでようやくシカマルが異変に気付いた。


「――ンだよッ!お楽しみの最中に邪魔しやがって!!テメェを先に呪い殺すぞコラァ」

「やめろ飛段。今日から“それ”は俺の心臓だ」

「ああ!?」




―― は?


シカマルの口から思わずポロリと言葉がこぼれ落ちた。

思考が止まる。

目の前は一気に真っ暗になり、耳が遠くなったかのように音が消えた。

受け入れたくない可能性が喉から出てくるのを全身が拒否するように何度も呑み込む。

血の気が引いた。

手足の震えが止まらない。

ごくり、と口に溜まった生唾を飲み込む。

不快な味がした。


「お前」


口先は震えた。

言葉にしてしまう事すら怖かった。

口に出してしまったら。

本当に。

現実になってしまう気がして。


「自分を売ったのか?」


俯いた黒髪の隙間から覗く、真紅の瞳と視線が混ざる。

ねっとりと絡み合って、引き付けられるのに。

その眼はシカマルの問いを肯定していた。


「上官命令――動くな」


シカマルが必死の覚悟での“これからすること”を止めようと影を飛ばす。

しかしそれは背後にいたもう一人のによって手首を背に押さえつけられ、簡単に阻止される。

しゅるしゅると手首に巻かれる植物は彼女の得意な忍術だ。

何とかもがきクナイで手首ごと傷つけ拘束を外そうと抗うと、今度は上半身ごと固定されてしまった。

頬を地面に押さえつけられながらもシカマルは目の前の最愛に向かって何度も叫び続ける。


「上忍で隊長であるアスマは見ての通り戦闘不能状態。かわりの特別上忍の僕が今後の指揮を執る」

「……、もういい。やめろ」

「救援要請を出してから20分。間もなく増援が来る。アスマ班はこのまま増援と共に撤退する事」

「お前は変なこと考えんなッ!…俺が考える!この状況を何とかしてみせるから…ッ」

「シカマルだってわかってるはずだ。この状況下でしかも3500万両の賞金首を見逃してくれるって言ってるんだから。対価としては安いもんだろ」

「お前だってアスマ班の…俺たちの仲間だろうが!」


――買いかぶりすぎなんじゃないかな

――僕はシカマルが言うほどお人好しでもできた人間でもない

――生憎目的の為なら手段を選ぶつもりはないんだ、正直


何で今になってあの時の言葉がフラッシュバックされるのだろう。

やめろ、おい、待て、早まるな、ふざけるな。

色々な感情が体中を駆け巡って今にもはちきれそうだった。


少しでもの傍に寄ろうと足をばたつかせて前進する。

アスマの治療を粗方終えたはもうそれ以降こちらを見ることはなかった。

子が親を追うように角都の元に行き「お待たせ」といった。


――!!!!!」


名前を叫ぶ。

何度も、何度も。

目を覚まさせるように。

悪い夢から覚めるように。


「これが最善だよシカマル」


ごめんね。

今までシカマルを抑えていた“分身”のが枯れるようにして消えていく。

拘束が緩み、振り返ったをつなぎ止めるように抱きしめると、クシャリと枯れた音を立てて崩れていった。


「兄さんの事、お願いね」


その声に勢いよく顔を上げるともうそこにの形をしたものは何もなかった。

あたりに黒い鴉が飛び交い、増援の到着を知らせる。

いのか、チョウジか…仲間の誰かが「大丈夫か」と自身の安否を気遣う言葉を投げたようだがまるで頭に入って来なかった。

手のひらの中には粉々に朽ち果ててしまった残骸が残る。

そして、がいた場所には一つの巻物が遺されていた。

の心臓だ、と直感でわかった。


「馬鹿野郎」


もう一度馬鹿野郎、と呟いた。

つんと鼻をくすぐったのは彼女が好んで摂取していたタバコの匂い。

中毒症状に体を慣らすためにと幼少期から摂取し続けていたのをシカマルはいつも近くで見ていた。

彼女の体からはいつも甘いタバコの香りがしていた。


「ゲホッ、ゴホッ」


火をつけて反対側を口に含んで吸い込んだ。

彼女のように直接取り入れることは出来ないが、匂いだけでも彼女を傍に感じられるように。

何度もむせながら吸い込んだ。


「やっぱり、タバコは嫌いだ」


煙が目に染みやがる。

頭上から降り注ぐ大量の雨は、頬を伝って無慈悲にも落ちていった。














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