(2021.12.31)
Cigarette message 17 花言葉
の自宅へは幼少期の頃から何度も訪れており、勝手知ったる仲だ。
両親はが幼いころに殉職しており、物心ついた時にはと2人だったはず。
そんな兄も3年前の長期任務の際、暁と接触し心臓を奪われ文字通り植物人間となってしまった。
の仲間すらも騙した策略でなんとかの心臓は奪還。
無事に本来あるべき場所へと戻り、はつい先日には意識が戻ったと聞くから本当にの生命力は侮れない。
化物を腹の中に飼う、囮というところが名の語源というのをどこかのうわさ話で耳にしたことはあるが、本人に尋ねてみれば「へぇ、そうなんだぁ」と興味なさげな様子ですぐに話は終わってしまった。
「確かここにスペアが」
左から三つめの茶色の植木鉢をずらすとそこにはスペアキーが隠されていた。
3年間と長く家を空けることになるからと事前に何かあった時のためにが仕込んでいたものである。
シカマルは小さな花の飾りがついたそれを指で人撫ですると、ふうっと息を吐いて鍵穴に差し込み捻った。
ふわりと向かえてくれるのはの香りだった。
正確にはが纏う植物の香り。
タバコ、だろう。
赤子が口に入れればたちまちニコチン中毒となり最悪の場合致死するもの。
はこれをまるで飴を舐めるかのように日頃から摂取しており、その姿も何度も見ていた。
「毒を入れ続けなきゃいけないんだよねぇ」
ある日はそう話した。
ワクチンのようなもので一定の期間一定量を摂取し続けることで耐性をキープし続ける必要があるのだとか。
このご時世どうしてそこまでする必要があるのだと問うと彼女はにへらと笑うだけで応えてはくれなかった。
玄関からまっすぐ伸びる廊下を進み二つ目の部屋を右に曲がるとが一日の大半をすごす家の書斎がある。
巻物や書記など幅広い年代のものがずらりと並ぶ書斎だ。
殆どが読みかけのままになっており畳を埋める程に散らかっていた。
目を這わせて目的のものを探す。
(これ、か。いやこっちのが新しいか)
直近までが読んでいたであろう物を目で探す。
ぺらぺらと目で開かれたままのページを追うとが得意とする植物に関するものや血継限界に関するものが記されていた。
(種、か)
無造作に付箋を貼られていた箇所を指でなぞると共通点を見つけて思考する。
奈良の忍術に影が必要なようにの忍術には種を必要とした。
種類によって効果が変わんのか、とシカマルは今までの彼女の戦闘スタイルを思い返し記憶をたどっていく。
―― 陽遁 血吸イ鋏
―― 陽遁 蔦風車
飛段と角都戦で使った忍術はこの二つだった。
鋭利な2対の刃を使って切りかかる血吸イ鋏と、術者の血とチャクラを吸い上げ蔓となり一定期間相手を拘束する蔦風車。
(原産国が土の国と水の国――アイツ3年間これを探し回ってたのか)
この時の為に。
付箋のページを開くとどれも火の国だけでは手に入れることが出来ないものばかりだった。
中には希少価値の高いものもあり、時期を間違えると数年単位で手に入れることが出来ないものまである。
それに加え、暁の情報を知り得るのも一つの目的だったろうに違いない。
誰に何の相談もせずに、3年間も、一人で――。
―― 私は孤独が好き。
タバコの花言葉だ。
いつ切り捨てられてもいいように。
情に流されないように。
他者とは近づきすぎず。
適度な間合いで。
として。
身を切れるように。
選択を間違わないように。
仲間の為に――。
「あ?んだこれ……」
他の付箋とは異なる紙切れが挟み込まれておりシカマルは首を傾げる。
挟まれていたページを開いてその紙きれを抜いて手に取るとそれは一枚の写真だった。
(……………)
思わず口がへの字に歪む。
アカデミーの卒業の時にたった一枚だけ撮ったとシカマルの二人が映ったものだ。
ヨシノやに言いくるめられて渋々並んでとった記憶が蘇る。
まだ12歳のシカマルは照れくささを隠すように両手はズボンのポッケにしまって不貞腐れた様にこちらをにらみつけている。
我ながら態度が悪いなと苦笑してしまうが、ふと隣ののほうへと視線を流してはっとなった。
柔らかくはにかんだ表情はなんというか――。
「――それね、一生のお願いってがねだったんだよ。我儘なんて全く言わなかったのに、どうしてもシカマルと撮りたかったんだってさ」
「さん!?どうしてここに」
「どうしてって、俺の家じゃない。俺との」
戸のふちに腕を当てて覗き込むように笑う。
ほんの数日前まで数年単位で床に臥せていた人物とは思えない口ぶりでだった。
掴みどころがないのは流石血の繋がった兄妹と言ったところか。
呆れて言葉を失っているとは「ま、抜け出してるからもうすぐ連れ戻されちゃうんだろうけど」と悠長に微笑んだ。
「アイツは甘いね。優しすぎるんだよねなんて言うか、根っこのところがずっとさ。疑うことを知らない。すぐに人に騙されるし、騙されたっていいって思ってる」
「そんな奴っすよ、アイツは」
「そうだね、シカマルの方がよく見てくれているか。も君の前だけは線引きが緩くなってたもんな」
「…どういう意味っすか」
「そのまんま。は君の事が好きってこと。かなり前からね」
その写真が証拠、と指さす。
そんな素振りも言葉もなかったくせに。
なんならいつかの飲み屋街で「シカマルを好きになることはない」と話していたのも耳にしている。
―― 私は孤独が好き。
それならなんで、写真なんか持ち歩いてたんだよ。
「はぁあ…。ほんっとめんどくせー生き方してんな、お前はよ」
「はは。それ、本人に直接言ってあげてよ」
「は――」
「あれから今日で5日らしいじゃん。生きていればそろそろ長年蓄えてきた毒が抜けてくる頃だ」
「!」
呆れを通り越して笑いが出る。
人懐こいように見せていつも一線引いた関わりばかりしていた。
あの不器用で甘え下手は人に頼る、ということを知らないらしい。
が仲間のことを思う気持ちと同じくらい仲間たちはのことを大切に思っているのに。
変わらず思い続けているというのに。
「確かにそーっすね。アイツがほいほい無駄死にするようなタマかよ」
シカマルの目に光が戻る。
腹の括った今の自分に怖いものなどない。
「説教してやらねーとな」
写真を胸ポケットにしまう。
そんなシカマルを見てはニコリと口元に弧を浮かばせて笑った。
「妹の事、よろしく頼みます」
―― あなたがいれば寂しくない
もう一つの花言葉を思い出しながら、彼女を近くで感じるためシカマルはタバコの火をつけた。
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