(2022.10.13)
Cigarette message 18
「借りるぜ、アスマ」
消毒液の匂いと規則的な機械音が響く病室。
すやすやと穏やかな寝息を繰り返すアスマのもとにシカマルの姿はあった。
朝早い時間という事もあり紅も自宅に戻っているようで、他には誰の姿も見当たらない。
目が覚めるのも時間の問題と医師は先日話していた。
経過良好な恩師を見て、そしてそれから彼の愛刀……二対のチャクラ刀へと目線を落とした。
何度か握り直し、自身の手馴染ませるように感触を確かめる。
(の奪還にはこれがどうしても必要になってくる)
他の手筈は全て整えた。
策も練った。
IQ200と言われたシカマルが。
あの面倒くさがりで有名な彼が三日三晩寝ずに考えこの日のために備えた。
全ては彼女を連れ帰るために。
「必ず、連れて帰る」
恩師に決意表明をするシカマルの目に迷いはなかった。
手筈は整った。
ピッピという一定のリズムを背に向けるシカマル。
「――」
アスマの声にはっと目を見開く。
“行ってこい”
確かにそう言った。
「おう」
シカマルは背中を押される気持ちでアスマが眠る病室を後にした。
+
靴、ベルト、忍具…どれひとつにおいても確認は怠らない。
もう今となっては慣れた手つきでタバコに火をつけると口に含んで彼女を感じた。
「準備できた?」
「行くよ、シカマル!」
いのとチョウジと共に木の葉の里の門をまたぐ。
こういう時ほど幼馴染の存在が頼もしいことはない。
あぁ、と返事をすると二人は嬉しそうに表情を引き締めた。
「待て!どこへ行く気だ」
呼び止められ、足を止める。
これも想定の範囲内。
戸惑いを隠せないいのとチョウジに対してシカマルは涼しい顔をしたまま火影を真っすぐに見つめかえした。
「任務命令は継続中っすよね。まだ18の小隊は散らばって動いてる。オレらは新しく隊を編成してこれから任務に向かうところっすよ」
「身勝手な行動は許さん!…シカマル、お前はこちらで再編成した小隊に組み込む。そしてしっかりと作戦を組ませて行かせる」
「後で増援を送ってくれればいいっすよ。俺とチョウジといのの線ですでに作戦も立ててありますから」
「――いい加減にしろ!!」
「………」
送り出した身として大きな責任を抱えているのは綱手も一緒だった。
ピン、と空気が張り詰める。
綱手の五代目火影としての思いがわからないほど3人は子どもではない。
「アスマは重傷、も消息不明で生きているかどうかもわからない――今のお前らは3人だけだ」
「…」
「小隊は四人一組が基本だ!隊長がいないお前らに…」
「アスマもも俺たちと共にいる」
「弔い合戦でもするつもりか!お前らしくもない…犬死したいのか!」
「俺達だって馬鹿じゃないっスよ。死にに行くつもりなんて毛頭ないっスから」
ふう、と息を吐くシカマル。
ふわりと広がるのは煙草の香り。
『 これが最善だよシカマル 』
『 ごめんね 』
その度に彼女のことを思い出しては、胸が締め付けられた。
―― あなたがいれば寂しくない。
香りと共に彼女を感じる。
それだけで怖いものは何もなかった。
ただ、と続けると綱手も眉をひそめてその言葉の続きを待つ。
「このまま逃げて筋を通さねェまま生きてくような…そういうめんどくせー生き方もしたくねーんすよ」
覚悟の決まったその言葉の重みに彼の意志の強さを感じる綱手。
生きているかも死んでいるかもわからないというのに、彼は、彼らは生きていると信じてこの場所に立っている。
煮え切らぬ思いで綱手は奥歯を噛み静かに答えた。
「…成長しろ。忍びには死がついてまわる。時には受け入れがたい死もある。しかし乗り越えなければ未来はない」
「アイツは――は生きてる」
「…!」
「並外れてるんすよね、の生命力は」
「!……現実を見ろ。お前らは3人だ」
安否を確認するにしろその人数では行かせられない、という意味を含んだ重い言葉。
その張り詰めた緊張感をとっぱらったのは、予想外の人物だった。
「――小隊は4人いればいいですよね」
「カカシ、お前」
「第10班には俺が隊長として同行します」
それでどうですかね、と交渉するカカシ。
カカシの交渉に流石の綱手も折れざる負えなかったようで渋い顔をしながらもその案を飲み込み「好きにしろ」と息を吐いた。
「んじゃ、行きますかアスマ班」
あ、今は班なんだっけ?とにっこり笑うカカシ相手にシカマルは「感謝するぜ」と口元を緩めた。
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ぽちり