Cigarette message 02 昔話









と出会ったのは、アカデミーよりももう少し前だったはずだ。

否。

正確には家族ぐるみの付き合いがあるらしく生まれたてかそこらの時に会ったことがあるとのことだが当然俺の記憶に残るものはない。



今思えば、その頃のはあのナルトほどではないが少し浮いていた。

そして、俺は子どもながらに「関わると面倒くさそう」というのを本能的に予感していた気がする。


黒髪。赤い目。


目を引く姿とは裏腹にその雰囲気は地味そのものだった。


戦場で一番に死にそうなヤツ。


そういわれてもおかしくないと、彼女を見ていれば思えたほどに。

伏せられた瞼。

口元はスカーフで覆われ表情がわからない。

癖のない短い髪。

その容姿だけなら男の子にだって見えてしまいそうだ。

決して機敏そうでないその風貌からか、同年代の子どもに

茶化され、突き飛ばされ、そして川に落とされてる場面を何度も見た。


「…」


は泣かなかった。

それどころか不意打ちを食らった時に口の端から「あ」と小さく漏らしたくらいで、所謂悲鳴とか、嗚咽とか抵抗なんてものがなかった。


「な、なんだこいつ!」

「気持ち悪ッ。なぁ、もういこうぜ」


突き落としたほうは2、3言何かを吐き捨てたようだったがきっと予想していた反応がなかったことを不気味に感じていたことだろう。


ビチャ

ビチャバシャ…


水気を含んだ重そうな体で岸に上がる


そして。

ぱちりと目があった。


「あ…」


真正面から直視してみると思っていた以上に大きな目をしていた。

うちは一族のあの赤とはまた違う柔らかな赤み。

猫っ毛が水を含みしゅんと垂れており、水滴を落とした。


「こんにちは」


水滴をぬぐうこともせずはそういった。

その時俺は気づかないふりをしてさっさと帰路につきたい衝動に駆られる。

なのに。


「こん、ちは…」


目がそらせなかった。

釘づけだった。


「君、お名前は?」

「…は」

「…?ないの?」

「いや、あるけど…」


状況が状況だけに驚きが隠せなかった。


「あぁそうか僕が名乗ってないからか…僕、


ぽたぽた。

ぽたぽた。



しずくが滴り落ちるがそんな事お構いなしにそいつは言った。


「シカマル」

「シカマル…」


一度口の中で呟いては「覚えた」と目を細めた。

もしかしてもしかすると少し、笑っていたのかもしれない。

深く関わるとぜってぇ面倒なことになる。

心のどこかでそんな確信めいた何かがある。

なのに、紡いだ言葉は


「どうして泣かねーんだ?」


ということだった。


「泣く?どうして?」

「だってお前。今…明らかに突き落とされてたろ」

「見てたんだ」

「…っ」


やべ、と胸がなった。

止めに入らなかったことを不審に思われたかと思った。

しかしはそれには触れず、少し考えて


「……なんで僕突き落とされたんだろう」


と小首をかしげた。

きょとん。

呆れを通り越して、少し笑えた。


「まぁ、いいや。わかんないことは、考えてもわかんないし」


考えるだけ面倒くさいや。

そうしてぺちゃぺちゃと音を鳴らしながら歩き出した。

これから帰るつもりだろうか。


「変な奴…」


呼び留めるように言った。

皮肉でもなんでもなくそう思った。


「ばいばい、シカマル」


は特に答えるわけでもなくひらひらと手を振った。

通りすがりに鼻腔をくすぐった花の香りは幼いながらによく覚えている。




 +




シカクの一声でシカマルとヨシノが席を立って二人だけになった。

ぼんやりと灯るあかりが部屋をチロチロと舐めるように灯している。


「収穫はあったかい」


沈黙を破るようにシカクは言う。


「はい」

「そうか」

「この後自来也さんにも報告にいってきます」

「おう」


シカクはそう呟くとお猪口に口づけた。

15のにはまだその酒の味はわからない。


「兄貴んとこにはいったか?」

「……」

「行ってねぇな」

「…」


は唇をぎゅっと引き締めて頷いた。


「行ってやれ。たった一人の家族だろうが」


心の奥がきゅっとなる。

はその言葉をただじっと、耐えるように聞いていた。


「じゃあ…明日にでも」

「それがいい」


ふっと笑みを深めるシカク。


「いつも…僕たちのことを気にかけてくださってありがとうございます」

「おいおい、顔あげろ」

「奈良家の皆さんには本当に頭が上がらないです」


そう言っておずおずと深く頭を下げる

シカクはほんの少しの間考えるように見つめていたが時期に慣れないことをするかのように頭をかいた。

頭を面倒くさそうにかくその姿は親子だと感じさせるものがあった。





低く、脳に響く声。


「 もう気にすんな 」

「……」

「何度だって言う…もう、と奈良の関係なんて気にすんじゃねぇ」


赤くてぶれない瞳。

一線、シカクの双眼を捕らえる。

はその言葉には答えず軽く会釈をして「また来ます」と言った。


「……」


一人になった室内。

静けさ。

そんな静けさの中にため息が一つ響いた。




「響かねぇな」




そういて髭をさすった。

そして、少しでも酔いを深めるため、残った酒をぐっと飲みほした。














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