Cigarette message 05 任務漬け









朝家を出て、次の日の夜中に帰ってきたり。

はたまた、昼に家を出て1時間もせずに戻ってきたり。

かと思えば1週間も里を離れていたりと任務漬けの生活をしていた。

多い日は一日に5つもDランク任務を1人でこなすこともあれば

二人一組や四人一組で任務をこなすときなど実に様々だった。


普通の人間ならバテて、休暇を欲しがるところだが

はそれをせず、むしろ、多くの任務をこなしたがった。

その異様な姿によく思うもの、そうは思わないものの二つの見解があったと思う。


「ほいっと、始末書かんりょー」


もう大分書き慣れたもので、最初は30分ほどかかっていたものが

今ではたったの5分ほどで書き上げる速さとなった。

今のところ、失敗なし。

戦場で一番に死ぬタイプと言われる中忍は、いつしか何かあった時に

名前が上がるほどの知名度になってきていた。

上忍、もしくは特別上忍に上がるのも時間の問題だといわれるほどに。


「なあ」


今回、一緒に任務を組むことになったシカマルが解散と同時に声をかける。


「なあに、シカマル」

「お前、この後飯は」

「別に考えてないけど?」

「考えてないじゃねーよ。食えよめんどくせーな」


食べなくても多少は死なないし、とは言いそうになったが

相手がシカマルだったことを思い出しぎゅっと唇をつぐんだ。

怒られるのが目に見えている。


「あー」


彼は渋った時、思いきれないとき、照れたときなど

いろんな場面で頭をガシガシとかく。そして今もだ。


「時間あるなら久々にお前の手料理食いたいんだけど」


柄にもなく大胆な言葉を吐いて見たり。

きっと耳は真っ赤になってるだろう。

そんなことを知ってか知らずか、はあっさり了承した。




 +




確かに里に帰ってきてすぐに「上忍の話があるかも」ということは聞いていた。

実際自分自身に位の認識は少なく、むしろ


「あー僕そう言えば中忍だったんだっけ?」


といった感覚が正直強い。



なんせ、里を離れる数日前に火影に彼と呼ばれ決まったのだ。

彼とともに呼ばれた際は何をやらかしたっけと回想した。

アカデミー時代、よく二人で授業態度について呼び出されていた。

鉛筆を持つのも面倒くさがりなシカマルと、

授業なんて上の空で居眠りや窓の外をぼぉーっと眺める

そんな二人があの多くの受験者の中から中忍になれたのだから驚きである。


「サバイバル演習とかかなー」

「いや、そんなんはねーと思うぜ?」



ふーんと相槌を打ちながらは自分が炒めた野菜ソテーを頬張る。

の作る料理は中々に上手いと評判がいい。

昔ながらの和食を好んでおり、育ちの習慣からか野菜系が多い。


「よかった。木の葉の歴史とか聞かれたらどうしようかと思った」

「あー、ねーよそんなめんどくせー問題」

「なら安心。…おかわりいる?」

「…おう」


おかずだけ残し手持無沙汰にしていたシカマルから茶碗をもらい

このためだけに炊いた、つやつやのお米をたんまりと盛る。


「…うめぇ」

「ほんとぉ?シカマルはいっぱい食べてくれるから作り甲斐があるなー」

「誰かさんが1人だと全く食わねぇからな」

「僕のためにご飯作ろうなんて思わないもん」

「昔からそうだもんな」


は確か両親を生まれてすぐに失くしてるはずだ。

両親ともに忍びで、任務中の殉職と小耳に聞いたことがある。

がどこまで聞いているか知らないが、今まで

5つほど年が離れた兄、カエに育てられている。


「…なんか、シカマル保護者みたい」

「ぶっ」

「もー汚いなあ」


飛び散ったご飯粒を台拭きで綺麗にふき取り、

異物が気管に入ったのか咳こむシカマルに飲み物を渡した。


「あー。お前がへんなこと言うからだろーが」

「んー、だって食べないと怒るし」

「食わねぇかんな」

「寝てなくても起こるし」

「お前は極端なんだよ。3日くらい起きてんだろ」

「なんだかんだ他の誰よりも一番会ってるもんなぁ」


は何気ない口調で口説き文句に似た言葉をよく吐く。

根のやさしさが言葉にあらわれ、またほどよく――


「兄さんみたいだよね」


なんて、突き放すためその気にならない、否、させないのだ。

誰とでも仲良くなれるが、一定距離から内側には一切近づけさせない非情さ。

幼馴染として一番近いはずのシカマルでさえも、

まだ彼女の内側部分には入れてもらえていないようだ。


(わかっててやってるんだろーけど)


まったく、我ながら面倒くさい恋をしたもんだ。

その気にさせられたかと思いきや簡単に離される。


(ったく、スキ見せねーな)


こんなに気にかけるようになったのはいつ頃からだっただろうか。

報われるかもわからないこの恋がこのまま

消滅してしまうことだってありうるのに。

我ながらため息が出る。


「ごちそうさん」

「いえいえ。お粗末さまでした」

「…食器洗う」

「いいよぉ置いてても」

「お前この後すぐ任務だろ」

「おっ、ほおらー僕のことよく分かってるう」

「はぐらかすなよ」


2人分の食器を重ねて、台所に運ぶシカマル。

声色の低さが変わり、そのまま台所に消えるシカマルの背中を目で追う。

気を損ねた。

もしくは、気分を害した。

その空気だけがぴりっと伝わったかもしれない。

ほんの少しの間をおいて落ち着いた口調で


「水につけとくだけでいいよ。夜、洗うから」

「……」

「ほんとだよ?今日は里の中での任務だから今日中には帰ってこれるんだ」


幼い子どもが親に許しを請うような物言いだった。

平然を装いながらもきっと目を見てしまえば、簡単にそらされてしまうだろう。

目は口程に物を言う。


「…、最近任務詰め込みすぎだろ」

「そう?自分じゃ気づかなかったや」

「わかんねーわけねーだろ」

「…。忙しいと案外わかんないもんだよ。それに数はこなさないといけないしね」


明らかに言葉を選んでいる

蛇口から出てきた水が食器に流れ込む。

きゅっときつく締めると残った水滴がぽたぽたとこぼれ落ちた。




「何焦ってんだよ」




核心をつく問いだった。

流石のもこの言葉には黙らざるおえなかった。














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