Cigarette message 06 分厚い壁









彼は頭の切れる忍だと思う。

3年という未知の時間はあるがいくつかの任務を共にしていると

自ずとそれは伝わってくる。

仲間からの信頼だとか、任される任務の傾向だとか、戦略のよさとか。

僕自身そうであったように、彼も彼なりに3年間を過ごしてきたのだろう。




いままで上手く保っていた距離感が

離れて、

お互い大人になって、

わからなくなった。




「何焦ってんだよ」




嘘。

本当は最初からわかってなかったのかもしれない。

わかったふりをして、勝手に安心していたのかもしれない。

――折れるか、通すか。

分岐に立たされたとき、


『近づきすぎるな。情が移るぞ』


という兄の言葉。

そして、


『弱さを見せる勇気がいるかもしれんな』


という自来也の言葉の二つが脳裏をよぎった。

さて、どう答えたものか――。




 +




結局のところ、答えを聞けなかった。

焦っている理由を言うわけでもなく、はぐらかされるわけでもなく。

ただ。


「今はまだ話せないんだ。ごめん」


という言葉からは、いつかのタイミングで打ち明けてくれるという確信を持てた。

聞きたかったものが聞けたわけではないが、

シカマルは「ん、わかった」と二つの言葉で返した。

彼女の真意を聞くためには待つしかないのだろう。


「3年も待ったんだ。今更そんな焦んねーよ」

「はは。シカマルくらいだよ、僕のことこんなに気に掛けるの」

「なんだかんだ長い付き合いだしな」

「しんぱいしょー」

「…お前なぁ」


台所から戻ってきたシカマルがの隣まで来て屈んだ。

今まで以上に呆れたような困ったような複雑な顔をしていた。

は小首をかしげる。


「いっこ言っていい?」

「何?」


尋ねるわけではなく、伝えるという手段。

待つだけの日々はもう疲れた。

ただ。

どうせ待つのであれば、せめて独りよがりだけはしたくないと思った。


「焦んねーとはいったが、正直待ち損はごめんだ」

「…」


目がいつになく真剣だったから茶化すのはやめた。


「確かに鈍くせぇし、相変わらず何考えてんのかわかんねーし

 面倒くせぇ生き方してんなって思うことはあるがよ」


忍びの中には彼女のことをスパイだとか、裏切り者だとか

疑うもの、また、よく思わないものまでいる。

」という死ににくい特異体質を気味悪がるのは自然なことだ。

物心ついたときから気味悪がられ、拒絶されてきた。


僕もみんなと同じ人間なのに。

同じアカイ血が通った、心のある人間なのに。

ちゃんと涙もあれば温もりもある人間なのに。


仲間外れにされて悲しい、と思ったのははじめの頃だけだった。

時期に慣れた。

こういうものなんだ。

僕が一族の血を継いだから仕方のないことなんだ。

子どもながらに「そういうものなんだ」と理解してしまえば

案外すっきりと物事を見て取れた。


と聞いて快く思わない者が多いのはきっと現代が平和である証拠だ。

この体質もやシカマルが生まれる何代も前に人工的に作られた

ものだということを知っているのは数少ない。




「仲間を見捨てねぇヤツだと思ってる」




目を見開く

ほんの少し、素の表情を見れた気がした。

言うなればあつい信頼。

自信。


「そこに俺は惚れてるし、俺で力になれんのらなりてぇとも思ってる」

「…」

「何に焦ってんのかは知らねぇが、あんま自分を追い詰めんな」


でも、ごめんねシカマル。


「――買いかぶりすぎなんじゃないかな」


淡々と言い放つ


「僕はシカマルが言うほどお人よしでも出来た忍びでもない」

…」

「生憎目的のためなら手段を選ぶつもりはないんだ、正直」


もし。

もしその時が来て。

それでも僕が君に言う勇気を持てなかったら。

その時はごめんね。


心の中で呟いた。














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