Cigarette message 07 共依存









彼が影を使う一族ならば、はその真逆に位置するチャクラの使い手だ。

陰を使う奈良家と陽を使う家は対等であり、

お互いがお互いを必要とすることで成り立っているといっても過言ではない。

共依存しているのだ。

チャクラの質だけを言えばその関係は奈良家と家が生まれた頃から

変わることはないと言われている。


はふっと小さく息を吐くと左手で印を結んだ。

右手の中にまるでお日様の光を閉じ込めたような感覚になる。


… 陽遁 …


種にチャクラが注がれると何十年の時を経たかのように

一気に返り咲き、そのツタは明らかに相手の動きを止めた。

本来、陽のチャクラは医療忍術に用いられることが多い。

実際も心得はある。

任務に就く際、の「使われ方」は治療班としてか、

陽動役としての二択が基本だった。


『これよりを特別上忍に命ずる!』


ふと、今朝言い渡されたばかりの言葉を思い返す。


『暁の動きもある。これからはお前にも前線に出てもらうぞ』


綱手の言葉に二つの言葉で返事をした。

暁対策ように組まれた20の小隊を新編成し、加入することになるらしい。

外の任務につくこともこれから多くなりそうだ。


「(チャンスも増えるってか…)」




ごりごりと煎じたばかりのものを指につけ一口舐める。

舌先のほのかな苦み、そして時期に耳の奥がちりちりしだすのを感じる。

はほんの少し唇を尖らせて、直筆の調合表を見つめた。


「んーやっぱユリが多かったなー…」


ぴっぴ、と斜線を引いては鉛筆を放り出した。

調合した薬味に念の為の解毒剤も追加して紙袋へとしまう

そして来客のほうへ向き直ってにこりとほほ笑んだ。


「ごめんねぇサクラ。お待たせしちゃった」

「…。アンタ…ほんといつ見てもすごいのね」


それって、有毒植物でしょ。

綱手の元で医療を学び、医学の知識を持つサクラが唖然とする。


「あはは、僕にとってはどんな毒も無害だからねぇ」

「ホント、すごい体質」

「遺伝ってすごいよね。はい、頼まれてた薬だよ」


はそう言って紙袋を手渡す。


「中に付箋とメモが入ってるけど、分かりにくかったら言ってー」

「わかった。ちゃんと伝えとく。ありがと、

「お安い御用さあ」


調合しかけのものを危険物だけある程度片付けて

はサクラを家の入口まで見送った。


「綱手さまによろしくね」

「はーい。じゃあね、。――あっ、特別上忍おめでと!」

「!…ありがとー」


にこり、と手を振る。

そんなにサクラは「今度お祝いしましょうね」と笑った。


「ばいばーい」


緩く見送る。

まさかこんなのんびりさんがあらゆる毒に耐性があるなんて。

本人は何でもないように言ってのけるが、毒が平気だなんて大変なことだ。

勿論体質だけで毒が無害になるなんてはずはない。

自分の体内に免疫を作るために何度も摂取していき

色々な植物に強くなっていかなくてはいけないのだ。


「あーあ、いいお天気」


雲の隙間からこぼれるお日様に向かってぐーっと背伸びをする。

お日様に当たるのはいいことだ。

植物にとってもそうだが、気持ちもすっと楽になるのを感じる。


「そうだ、お散歩に行こう」


せっかくだしこのままお日様を浴びるのもいいかもしれない。

任務もないし、仕事もひと段落した今。

はなんとなく思い立ったまま、自宅の鍵を閉めた。




 +




パチン、と将棋盤に綺麗な音が響く。

それをじぃっと見つめるのは男2人。

1人は煙草をくわえ涼し気で、1人は珍しくも顔をゆがませていた。


「珍しいっスね。いきなり棒銀なんて」


シカマルは言う。

「じっくりやろうぜ、時間もあるんだし」と続け、

次の手をパチンと打った。


「敵陣突破の先兵だ。たまにゃこういう指し方も出来ないとな」

「…そういう指し方嫌いじゃなかったスか?俺と同じで」

「上手相手に玉を守るためには犠牲もやむなしってやつだ」


アスマの言葉にぐっと黙るのはかつての彼を知っているからだ。


「何かあったんスか?」

「別に…何もないよ。ただ今頃になって玉の大切さが分かってきたのさ」

「そりゃ玉取られたら終わりっスからね、将棋は」


いつもとは違う戦い方をする師に違和感を感じつつ、続ける。

そんな彼の思考の半分以上は最近の出来事を思い返していた。


『買いかぶりすぎじゃないかな』


堪えている。

正直。


『生憎目的のためなら手段を選ぶつもりはないんだ』


きっとアスマに見透かされるほど、日常に出してしまっている。

そうでなけえば唐突に


「次の任務後の打ち上げ代をかけよう」


なんて持ち出すことはないはずだ。

支障をきたしているのは自分が幼さが原因だろう。


「木の葉の忍びを将棋に例えるならシカマル…差し詰めお前は桂馬だな」

「…なんで?」

「力は弱いが、駒を飛び越してユニークな動きができる。

 型にはまらないお前の柔軟な思考に似ている」


戦術的な話であれば、確かに、と妙に納得できた。

少し考えて「じゃあ先生は?」と問うた。

アスマは少し目を伏せ、パチンと駒を進める。


「犠牲駒ってか…」

「なら…玉は誰だかわかるか?」


アスマの問いにシカマルは少し考えてから「火影だろ」と答えた。

しかしアスマの考えるそれとは違ったようで、表情に一切

出なかったものだからちょっとばかり悔しい気持ちがふと湧き上がる。


「お前も時がくりゃわかるさ」


その言葉が、心の奥にほんの少し沁みた。




「やっほー、アスマ先生ー。お、シカマルも一緒じゃん」




今一番聞きたくない声に、シカマルの心臓は踊るようにはねた。














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