Cigarette message 08 約束









「特別上忍おめでとう。お祝いしないとな」


アスマはを見た途端鼻が高そうにさらりと言った。

は少し照れて「ふふ」とはにかんだ。


「小隊はアスマ班に配属されたっぽいから、またよろしくだね先生」

「ああ」

「シカマルも」


昨日の事など何もなかったように話すに戸惑うシカマル。

「…おう」と短く返すのがやっとなシカマルな対し、

はそんな事お構いなしに縁側に腰を掛け、局面を見下ろした。


「…んー」


薄く目を細めて思慮する姿はほんの少し色っぽく感じる。

そう感じてしまう俺、重症だなとシカマルは自嘲した。


「先生強気じゃん」

「…まぁ、たまにはこんな戦術もいいだろ?」

「…お前、ルール知ってたのな」

「うん、シカクさんに仕込まれてるからねぇ」

「へぇ」


父親であるシカクとも接点が多いのは知っていたが

正直将棋を打っているところは一度も見たこともなく、想像もつかない。

アカデミー時代も、シカマルやナルトとドンを競ってたほどの学力で、

昔からの馴染みとはいえに対し頭が切れるなどと思ったことはなかった。


「面白い。、今次の打ち上げ代を賭けて打ってるんだが

 この局面からシカマルにもし勝つことが出来たら何かしてやろう」

「…何か?」

「昇忍祝いもあるしな。我儘1つ聞いてやるよ。俺にできる範囲で、だが」

「そうだなぁ…」


再び、将棋盤を見て思慮する

突然の話の展開にシカマルのほうがドギマギしていた。

彼女が将棋を打つなんて、想像もつかない。


「じゃあ、やる。勝負だシカマルー」

「よし。その代わり負けたら打ち上げ代は割り勘だからな」

「ほいさぁ。わーシカマルとは初めてだなぁ」

「お、おう。」


パチン、とが駒を進めた。

迷いのない綺麗な一手だった。

様子を伺いながら、シカマルも陣を広げようと駒を動かした。


「ちなみに、どんな我儘でも聞いてくれるの?」

「俺に出来る範囲ならな」

「うーん、何にしようかなぁ」


パチン。

パチン。


「おいおい、コイツに勝つ気でいるのか?相当の手練れだぞ」

「負け戦はしたくないんだ。それに、ご褒美あるほうがやる気になるし」

「そりゃ結構、ほら、こっからどうすんだ」


シカマルが攻める。

際どいと感じながらも、この局面での犠牲はやむおえないと判断するや否や

はその陣を捨て、新たな策を考え始めた。


「(こいつ…簡単に捨てやがった)


その冷静かつ淡白な決断にシカマルは何故だか昨夜の言葉を思い返していた。


「(生憎目的のためなら手段を選ぶつもりはない、か)」


見捨てた陣は当然死んだ。

まるで犠牲ゴマだったかのように呆気なく、だ。

温厚柔和な彼女からは想像もつかない冷徹な一面を知ったシカマル。

ごくりと喉を鳴らし、涼し気に盤を見つめるを盗み見た。


「勝ったら、そうだな…」


閉ざしていた口を開くと、そこからはいつもの軽い調子で物を言った。


「              」


二人は目を見開いた。

シカマルを動揺させるには十分すぎるほどの内容だった。




 +




「おーい!」


キン、と張り詰めた空気を一蹴したのはナルトの放った一声だった。

その声に、アスマもシカマルの思考ははっと現実に戻った。


「実はちーっと聞きたいことがあるんだってばよ」

「聞きたいこと?」

「そそ、俺ってば風の性質変化の修行してるんだけどさ!

 コツ、教えてくんない?」

「風の性質変化のコツ、ねぇ」

「そ!」


風の性質変化といえばアスマの得意分野だ。

へぇ、ナルトは風なのかとは興味半分話を聞いていた。


「お前性質変化の修行してんのか?ありゃセンスがないと駄目だぜ」

「だからアスマ先生にコツを聞きに来たんだってばよ」

「まぁ…そうだなぁ」


アスマはちらりとシカマルを盗み見て言った。


「今度の任務の打ち上げ代を変わってくれるなら考えてもいいぞ」

「あっ、先生それずるくなーい?」

「まぁまぁ」

「んー、修行のためだ仕方ないってばよ」

「よし、交渉成立だ」


こぶしを手のひらに叩きつけると、忍具・チャクラ刀をとりだしたアスマ。

それを見せながら持ち主のチャクラを吸う特別な金属でできていると説明する。


「アスマ先生の愛刀だねー」


ブン、と音がするとアスマのチャクラ、風性質のチャクラが刀に纏う。

鋭く研ぎ澄まされたそれを何となく怖いと感じた

少し離れたところからそれを見ていた。

あの鋭く擦れるような音は苦手だ。耳が痛くなる。

ぼーっと修行風景を眺めていると、これまたふわりと自分の幼少期を思い返した。


『一線引くんだ。そうしないと、いつかしんどくなるから』


近づきすぎるな、情が移るぞ。

一定距離で人と付き合うんだ。

馴れ初めなんて必要ない。

擦り込むように言われ続けていた言葉が蘇る。



の存在意義を忘れるな』


は将棋に例えるならば犠牲ゴマだ。

味方の勝利の為に陽動となり、この体質を活かして時間を稼ぐ。

まるで、囮――。


「そういやさ、の性質ってなんだってばよ?」


修行を一通り終えたナルトが言う。


「僕?僕らは――陽の性質だよ」

「ヨウ?」

「そう、陰陽の陽。ちなみに奈良家が得意とする影は陰の性質なんだ」

「んー、じゃあとシカマルってば正反対なもん持ってるってこと?」

「性質だけ言えばそういうこった」


シカマルが補足をするように言う。

それでもしっくり来ていないナルトを見兼ねては立ち上がり

アスマのチャクラ刀を借りると、ブン、とチャクラを練りこんだ。


そして――投げる。


「わっ」


樹に貫通するとたちまち刺さった箇所が急成長をした。

つるは伸び、葉は蒼々と生い茂り、次第に蕾は開花した。


「医療忍術とかを想像してくれればいいも」

「すっげぇ!」

「ま、僕の場合血継限界に近い所謂お家柄ってやつなんだけど」


にこり、と笑みを浮かべる

その胸の内はどこか胸騒ぎに似たものを感じていた。

胸のざわめき。

何かの予感。

胸騒ぎ。

落ち着かない。

気が気でない。そんな感じ。

戦いが始まる予兆。


「俺、そろそろ戻るってばよ。いろいろ教えてくれてサンキューな!」


ナルトの影分身が消えるや否や、火影直属の鷹が飛んできて三人に緊張が走る。


「鷹だ…。何かあったんだろうか」

「……」


ほら、きた。

僕の勘は当たるんだ。


「アスマ先生」


完全に仕事モードに切り替えたがアスマにそっと言い放った。




「さっきの約束、忘れないでよね」




シカマルとの勝負に勝ったら、その時は――。














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