(2019.12.29)









 Cigarette message 09 時は満ちた









「話はそれまでだ」


屋上に呼び出された小隊たちは五代目火影、綱手の一言に身を引き締めた。

暁の動きが活発になってきたのは周知の事実。

そのお陰で各地で出没情報や被害報告が頻繁に上がるようになり、今回のように緊急招集がかかるようになるまで時間はかからなかった。

何のために数多くの任務をこなしてきたかというと全てはこの日のためといっても過言ではない。


(こんなに早く――)


暁のメンバーと会えるなんて。

決意を固めるようにぎゅっと唇を引き結ぶと兄、を想い胸を高鳴らせた。

ついにの心臓を取り返す手掛かりまであと一歩の位置まで来たのだ。

指先の血がひいていくのを感じる。

焦り、興奮、期待、そして不安。

絶対にしくじることは出来ないという程よい緊張感が自身を鼓舞する。

は一人誰にも気づかれないように目を鋭く尖らせた。

その時すっと、視界の端で影が動いた。


「なんだ?」

「あそこには元守護忍十二士の地陸がいたはずでは?」


綱手にアスマが尋ねる。

守護忍と言えばアスマも元十二士の一人だ。

同士だった1人、地陸の安否を尋ねたがその返事は期待を裏切るものだった。


「暁の手にかかりました」


どよめきが起こる。

それもそのはず、闇の相場で3000万両の金額のついた賞金首だ。

それほどの手練れを倒した、という事実にその場にいた全員に緊張が走る。


「やつらの目的も知りたいがかなりの手練れだ。拘束が不可能な場合は抹殺しろ。火の国から逃がすな」


必ず見つけ出せ。

火影のその言葉を合図に忍びたちは一斉に大地を蹴った。

再び地に足をつけた時には3人の忍び…アスマ、シカマル、そしてが出来上がっていた。

この面子での三人一組は今までにも何度かある。

接近、近距離のアスマ、中距離で相手の捕獲戦略のシカマル。

そして治療と陽動を得意とする万能型の

本格的な前線で戦える「戦闘」部隊だ。


「さて、じゃあ俺達は火ノ寺から当たるぞ」


いつもなら「ほいさっさー」なんて気の抜けた返事をするも今日ばかりは真剣な表情だった。

何か考え事をしているのか珍しく高い集中力を見せており、まるで別人のよう。

今回隊長でもあるアスマも同じく真剣な面持ちで「誰がかがやらなきゃな」という呟きをシカマルは聞き逃さなかった。




 +




火ノ寺へは半刻もたたずに到着する。

以前別の任務で訪れたことのある場所であったが、見違えるような景色に今回の戦いの激しさが容易に想像できた。

建物は決壊し、広場には数十名にも及ぶ棺桶が所狭しと並べられていた。

微かに鼻腔をくすぐるのは死臭と乾いた血の匂い。

はその光景を目の当たりにして誰に言われるわけでもなく静かに手を合わせて祈祷した。


「それで、地陸はどこに?」

「いえ、実は地陸様の亡骸だけがどこにも見当たらないのです」

「ねぇアスマ」

「?」

「どうした


名前を呼んでおきながら口をつぐんでしまったにシカマルは首をかしげる。

いくらか自分の中で言葉を温めていた彼女が顔を上げるとゆっくりと口を開いた。


「地陸さん、闇の相場では3千万両の賞金首だっていってたね。つまり」

「…恐らくな」

「換金所か。ってことは奴等、死体を持ち運んでるって事っすね」

「在り得るね。付近の換金所は5か所あるから…他4か所は近くの班が駆けつけられるように手紙を送っとく」

「すまない、


理解からの行動の手早さは流石特別上忍と言ったところ。

は腰の巻物の一つを地面にさっと広げるとその4つの術式に手を這わせて口寄せする。

さらさらと筆を滑らせた書物を咥えさせると、そのまま空へとはなった。


「よし、俺達も急ぐぞ」


老師がこれから戦う忍びたちの為に祈りを捧げてくれる。

安否を気にする老師に「地陸より俺の方が500両高いですから」とにかっと笑うアスマ。

そんな中、これからしらみつぶしにする中の一つにいるであろう暁がどうかの心臓を摂ったアイツでありますように、と心の中で願った。

ついにこの時が来たのだ。

3年間里を離れたおかげで中忍としてのキャリアは得られなかったが、策は整えた。


(待ってて、。僕が絶対に)


目が据わったのが自分でもわかるほどで、はいったん冷静を取り戻すためにも目を閉じ息を細く長く吐ききった。

一番近い換金所までは昼過ぎには着くだろう。

地図を見つめて数秒。

最短ルートを割り出して提案すると、シカマルはそれを二つ返事で了承し、アスマに指示を仰いだ。

道が決まれば後は進むのみ。

トン、トン、と軽快なリズムで木の上を移動していく。


(絶対に取り返す)


瞼の裏に焼き付いているのは唯一の肉親、兄の姿。

視線を合わせて、腕を伸ばして、にっこりと微笑んでくれるその笑顔に胸がぎゅうぎゅうと締め付けられる。

しかし幼き日の自分の目に焼き付いた彼の笑顔も、日に日に薄れていくようで怖かった。

時間がないのだ。

こうしている間にも刻一刻と“その時”は近づいてきている。

早く心臓を摂り返し、あるべき場所に返さないと。




(例え刺し違えたとしても――)




思考をそこでいったん終わらせると、は決して後れを取らないように枝を強く蹴った。













お気軽に拍手どうぞぽちり inserted by FC2 system