(シカマル)









 優しい味









並木道のある丘を下り、角を曲がると集合といわれていた待ち合わせ場所である。

そこにいるはずの黒髪赤目の人物の姿はなく、その代わりに予想外の人影があったものだからシカマルはぎょっと顔をしかめた。


「あ、れ…アスマぁ?なんでアンタが…」

「おー、来たか。その様子だと聞いてないようだな」

「はあ、何が」


アスマと呼ばれたシカマルの師でもある人物はふかしていたタバコをぎゅ、とこすり付けて火を消すと驚きを隠せないでいるシカマルを見やった。


の代わりに俺が今回の任務を任せられた。まぁ気軽にいこうや」

は…」

「あーアイツは…」


続きを聞くなり、シカマルは顔を引きつらせるシカマル。

反応が予想通りだったのかアスマも呆れたような反応を返した。




 +




「――で。なんで毒盛っても死なねぇ奴が風邪でへばってんだよ」


任務の最中溜まりに溜まっていた思いを目があった瞬間速攻で溢れ出た。

マスクに冷えピタ氷枕で布団に包まるザ、風邪っぴき…もとい、はのっそりと上半身だけ起き上がり、いつも以上にぼぉーっとした口調で言い返した。


「毒物って体質的に免疫があるんだけど、ウィルスは別だよぉ」

「いや、意味わかんねぇから」

「しかもその体質が邪魔して風邪薬きかないし…」

「なんつーか間抜けな話な」

「間抜け言うなよぉ」

「つまりは自分の免疫力で治すしかないと」

「そぉーなのぉ…」


特異すぎて呆れかえるシカマル。


「(なんつーめんどくせえ体質してんだよ)」


盛大にため息をつき人差し指で額をつくと、簡単に彼女は布団に沈んだ。

戦闘力ゼロ。

確かにこれじゃあ流石のも任務に来れないわけだ。

微かに触れた指先から感じた体温は自分のよりはるかに高かった。


「先生に変わってもらったんだあ。迷惑かけてごめんね」

「しょうがねぇだろ。任務も何事もなく終わってっから安心しろ」

「ありがとぉ…でもお見舞いいいのに。うつるよぉ」

「めんどくせぇけど、母ちゃんに飯持ってけって言われてんだよ」


そう言って、「台所借りるぞ」と奥に消えるシカマル。

はーい、と力なく答えた


「………」


そして、鈍い思考がこれまたいつも以上に鈍く回転する。

ん?

台所?

誰が…シカマルが??

そこまで考えてはばっと起き上がった。

そして一目散に廊下を走る。


「え…!?シカ…何する気!?」

「…何って加熱?」

「え、出来……」


正直シカマルが台所に立つイメージが皆無な

ヨシノさんが作ったであろうおかゆが入った鍋がぐつぐつと煮えられてて

は目の前の不自然な光景に目をぱちくりとさせた。

シカマルが。

あの面倒くさがりなシカマルが台所に立っておかゆを温めている…。

しかもちゃんと弱火で。


「馬鹿にしすぎだろ。これくらい俺にだって出来るから、フツーに」

「…わぁ、吃驚した。風邪ひいてみるもんだね」

「引くな引くなめんどくせぇから。…その調子ならここで食えそうだな」


待ってろ、と言って鍋つかみと鍋敷きをいとも簡単に見つけ出し

ちゃぶ台に温まった粥を用意する。

普段からは想像もつかない生活じみた光景に、はぽかんとした。


「あり、がと」

「おう。お替り食えそうなら遠慮なく言えよ」

「うん」


素直に甘える。

なんだか変な心地だ。


「いただきます」

「おー、食えるだけ喰え」


思えば。

こうやって誰かにご飯を作ってもらって面倒見てもらえるなんて

アカデミー時代にカエがしてくれた以来だ。

こうやって熱を出しても、任務で怪我を負っても、眠れなくても一人だった。


「あち」

「だほ。火傷すっぞ」


正面に座り、手持無沙汰になったシカマルは肘杖しながら

まるで保護者のようにその様子をじっと見ている。

自分が食べるのをただ傍にいて見守る彼に胸がこそばっしくなった。

ほかほか。

ほかほか。

体の芯から温まる感じがするのは、おかゆの効果か、それとも。


「おいしいよ、シカマル」

「…かーちゃんに言っとくわ」

「うん。今度僕からも言うよ」

「普通にそんなんじゃなくても顔見せてやれよ。あれで結構気にしてんだから」

「…僕、なんか気に掛けることし――」

「言われないといつまでも食べない、寝ない、そのくせ任務には夜通し出かけ」

「――それ以上はいいっ!」


ホントシカマルは口煩いよね!

なんて減らず口。

キッと睨むと、切れ長の目がぱっちり合って次の言葉がなくなってしまった。

なんだよ、その余裕は。

同い年のくせに、むかつく。


「ま、誰かさんは元気でないと俺も調子狂うしな」


これからこの先、絶対シカマルに口で勝てる日はないのだろうと思う。

は悔しそうに口をきゅっととがらせた。









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