(2019.10.27)(Web拍手掲載夢)(私は貴方を見守る)
ナナカマド
目つきが変わる、というがの場合その落差が特にひどい。
普段の能天気お気楽マイペースお嬢さんが、忍びの任務になるとぴりっと背筋が伸びるから隊に程よい緊張感が走るのだ。
高いランク帯の任務をこなしている頻度が高くなってくると当然自身負傷も増えるし、なにより目がなんとなくだが色のないものになっていく。
目は口ほどにものを言う、というが彼女の場合一切任務の事を口に出さない代わりに目を見れば心の余裕のなさが見てわかるのだった。
(こんな風に)
任務終わりで同じ隊を組んだ奴らに何事かを話す姿はいつもと何ら変わらない光景。
隙だらけのにへら顔で話す内容はきっと一緒に組んだ下忍たちへの振り返りやら激励やらそんな類だろう。
窓越しに見えるとの距離は廊下一つ分くらい開いているが、それでもわかるほど、目がおかしかった。
「ちゃん最近新人指導のために小隊長すること増えてるけど大丈夫そう?」
「…なんでそれを俺に聞くんっすか、カカシ先生」
「んにゃ?誰よりもよく見てるだろうなーっと思って」
相も変わらず気配を消して背後に回るのが大好きな先生だと思う。
シカマルは怪訝そうに、これまた表情も何考えているのかも全くわからない先生を射抜くように見ると、手をひらひらと振りながらさらりとかわしてきた。
(水風船みてえ)
許容量はまだあるように見えて、強い衝撃が来ると一気に弾けてしまいそうな、そんな感じ。
例えとしては言い得て妙だと思ったが、こんなのただの幼馴染の勘というやつだ。
言葉を選んだ後カカシには「アイツもちゃんと自分の限界くらい見極められますよ」と返した。
「にしても、なんでが抜擢されたんすか?指導が目的なら他にもいるでしょう」
「だいぶ平和になったといっても現場での即戦力がいるんじゃない?ある程度のランクをこなせて、どのスタイルにも対応できるからね、ちゃんは」
「器用な体質と戦術が裏目に出たって事っすか」
「そゆこと」
タイプで言うと瞬時の決断力と視野の広さを生かした中距離あたりが彼女の得意なフィールドだろう。
それに加え、家柄特有の状態異常への強さ、医療忍術、陽遁という特殊な血継限界は木の葉の中でも他にない武器だ。
かつては戦いの窮地でいつでも囮となり切り捨てられるようにと訓練されたものであったが、今ではその頃の蟠りも少しずつ薄れていき、前線で名前が上がるほどのものになった。
ただ、確執は残る。
未だに古い世代を中心にの存在を駒のように思う連中がいるのも確かだという。
「これちゃんに言ったら怒るだろうからミュートなんだけど」
「…なんすか」
「上はの役をそのまま継がせようとしてるんだろうね」
「!」
深く問い詰めようとしたところカカシは「ま、そういうこった」と肩を叩いて消えた。
肝心なところを言わない大人に盛大にため息をつく。
と言えば3年近く寝たきり状態のの兄にあたる。
かつて彼が属していたポジションをそのまま受け継ぐ、という意味が「もうを木の葉は見離そうとしている」と捉えるのであれば、間違いなくは怒るだろう。
ようやく里に戻ってきたというのに、再び一人でどうにかしようと背負い込むかもしれない。
今の状況も状況だが、そうなってしまうのも結果彼女の寿命を縮めることにはなってしまう。
(つーことはだ。俺に出来る事と言えば…)
が陽なら奈良は影。
強い光にかき消されてしまわぬようにさらに強くなり、彼女の無茶を食い止める役は自分にしかできない。
面倒くさいが腐れ縁だ。
それに、惚れた女一人救えないでどうする。
「おーい、シカぁ。もう、手ぇ振ってたのにー!」
「あぁ、悪ィ。それよりお疲れさん」
「もうくたくただよぉ」
合流するや否やしんどそうに脱力する。
声色や雰囲気だけは明るいそれだが、やっぱり目だけは冷たかった。
日々の任務内容から、なんとなく察している部分もあるのかもしれない。
聞いても言い出すことはないだろうけど。
「んじゃま、そんなさん、一緒に茶でも飲みにいきませんか?」
「んんっ!シカが優しい…!何々?何企んでるの?」
「今なら団子もつけるぜ」
「行くー!」
一瞬は疑いモードだった彼女も甘味と聞けばあっさりつれた。
同じ15歳とは思えないほど無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ねる姿を育成中の隊のメンバーが見たらなんと言うだろうか。
(それでいい)
甘いもの食べる事だけが息抜きではないが、背負い込みがちの不器用な想い人の為にそうした時間を少しずつ作っていってやろうとシカマルは思った。
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ぽちり