(2021.01.16)(NARUTO/シカマル/原作後)









 痛いほどに、









『 が任務失敗して、病院に搬送されたらしい 』


同期から矢継ぎ早に言われたその一言に、次の瞬間まるでピストン玉のように走り出していた。

は同期であり幼馴染でもある。

それでいて同じ10班に配属されて、同じ師の元で任務をこなした。

元々親同士の仲が良かったこともあり、アカデミー入学前から見知りの中。

けれども彼女の一族…というのは中々の癖ありで、当時は子どもながらに関わり合いを持つのはめんどくせえとうすぼんやり思っていたほどだった。


――戦場で一番に死にそうなやつ。


それが初対面の9割が思うであろう彼女の第一印象だろう。

常に眠そうにしており青隈と欠伸が絶えない。

まるで幼少期の子どもに話しかける様なゆったりとした口調。

素早さが資本な忍者に不釣り合いなとろい動き。

ぼんやりとした思考、ドが付くマイペース、自分のことに感心があまりない、etc.

そんな奴がまさかクナイや手裏剣といった刃物を扱うなんて到底想像もできない。

第一印象だけで言ったら皮肉でも何でもなく、花に水をやって家庭の中で暮らす方が似合っていると思うだろう。

…ましてや他里だけでなく暁を相手に前線で戦った木の葉の特別上忍だとは到底。


「…、」


彼女への想いが強くなったのは中忍試験の後だろう。

は唐突に「旅に出る」と言い出し、その次の日から3年間も音信不通を決め込んだ。

今までお目付け役だった自分の役割が突然不要になり、寂しさがこみ上げた。

それほどまでに自分の中で彼女の存在が大きくなっていたのだと確信した。

そして。

3年という月日は思いを温めるには十分すぎるほどの時間で、里に再び戻ってきた彼女が相変わらず自分が惚れたままの人だったことに安堵した。

相変わらずにマイペースで、相変わらず誰かの事の為に一生懸命になれる優しい人。

相変わらずのんびりしている癖に、相変わらず家族や仲間の為ならばと最前線に身を投げ出せる強い人。

…愛は深まり、実を結んだのはそれからしばらく経っての事だったなと今にして思う。


(無事でいろ)


血相を変えて同期の忍が、自宅の扉を叩いたとき少なからず胸騒ぎはあった。

心臓を鷲掴みにされているような不安が一気に体全体に広がり、それががらみだと察するまで5秒とかからなかった。

木の葉の里の病院までの道を最短コースで駆け抜けながら、頭の中では“最悪のケース”まで想定して生唾を飲み込んだ。


(無事でいてくれ)


まるで呪文のように心の中で繰り返し唱える。

こういう時、回転の速い自身の頭を恨んで仕方がない。

今自分が知っている情報は“奈良が任務で失敗した”ということと“病院に搬入された”という2つの情報だけだというのに、その安否がこの目で確認するまでわからずにもどかしい。

病院の前に降り立ち、飛びかかる様に受付窓口に走った。


「シカマルじゃない」


看護師に短く、そして簡潔に用件を述べたところで聞き馴染んだ声に振り返る。

息も整えずに肩で呼吸をしながら窓口に食らいつく自分の姿はさぞ周りの病院利用者から見たら異質だっただろう。

振り返ったその場所にいた同期の一人――サクラもかなり驚いた表情をしていた。

今度は窓口から離れてサクラに詰め寄ると、彼女の表情に少し安堵できた。

深刻な状況だったらここで緊迫した表情を浮かべるであろうサクラが、ほっとしたような表情を見せたからだ。


なら無事よ。でもしばらくは絶対安静で入院になるし、当面忍の活動は無しね」

「!…部屋は?」

「4階の405号室。早く顔を見せてあげて、安心すると思うから」


医療の心得のある同期の言葉に胸のざわつきが少しずつ解消される。

それでも完全に安心できないのはさらに追加された情報3つ。

“無事”なのに、“絶対安静で入院”。

そして“忍の活動は無し”ということ。

頭の中で1つの心当たりが強く浮上する。

やはり会うに越したことはないと足を真っすぐ進める。

背中でサクラの「おめでとう」という言葉が聞こえて、心当たりは確信へと変わったのだった。


 +


「3か月だって」


清潔感あふれる白を基調とした部屋にぐったりと横たわる彼女は特に目立った外傷もなく、ただぐったりとしたように布団に沈んでいた。

辛そうに目を細めながらも口元だけは柔らかく笑みが浮かんでいて、腕には足りていなかった栄養素を補うように点滴のチューブが繋がっていた。


「みんな大袈裟なんだから。ちょっとふらっとしちゃっただけなんだよ」

「…ばーか、お前のちょっとは大したことあるんだよ」

「へへ、サクラの言った通りだ。アンタそれ、シカマルに怒られるからねって」


さっきまで使われていたのだろう、出しっぱなしだった椅子を借りて傍に腰を下ろす。

ゆっくりと布団の隙間から差し出された彼女の手をしっかりと両手でつかむと、シカマルは安否を確認するように額に当ててその温度を感じた。

はぁ、と今までの心配を、不安を、安心を、そしてこれからの期待を十分に込めて盛大に息を吐きだした。


「 ありがとう 」


彼女の手を額に押し付けたまま、そう言う。

するとはふふと笑い「パパは泣き虫だねぇ」と、まだたいして大きくもない腹の膨らみを撫でた。

惚れた女の、世界一綺麗な笑顔だった。














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