(2023/10/27)(過去Web拍手掲載夢)









 朝
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「おはようございます。おやすみなさい」

「待て待て待て」




朝。

太陽が東の空から顔を見せ木の葉の里を優しく照らす。

人々は朝日に照らされながら活動を始め、日が沈むと同時に帰路につき家で休むというのが一般的な話。

それは忍びにおいても例外ではない。

特別な任務の最中はそうは言ってられないが、オフの日は他の人と変わらず朝起きて、活動して夜は床に入るという普通の生活を送る。

が、しかし目の前の忍びは目の下に大きなくまを飼い慣らし、今にも眠りこけてしまいそうな雰囲気のまま朝を迎えていた。

目の前の惨状に無意識に顔が引きつる。

面倒くさい事態になってんぞと視界に映る光景にクラりと眩暈がした。


「っと、この馬鹿。起きろ!」

「…今回だけはぁ、今回だけはお見逃し下さいぃ…」

「重っ。おいコヤ!自分で立て!もたれ掛かんな!!」

「むぅうーりぃぃ」


呼び鈴を鳴らしても返事が無い事に長い付き合いだからこそわかる“嫌な予感”を感じ、玄関を勝手に開けるとこれだ。

第一声がすでに8割ほどは寝ているのではと思わせるほどにぽやぽやとした状態のコヤ。

シャツ一枚にゆるめのスウェット。

完全に部屋着姿のそれも問題なのだが、何が一番の問題かというとそんな彼女が全身を脱力させてシカマルにしがみついたことだ。

言ってしまえばまだ玄関先。

里から離れた場所にコヤの自宅はあったがそれでも人目がないと言えば嘘になる。


「ったく」


首の後ろに手を回してきたかと思えば彼女の全体重が容赦なくそこに乗せられた。

抱えられないわけではないが油断していたというのが一番の敗因だっただろう。

そのまま彼女と一緒に沈み込んでしまうのを、シカマルは膝をついてグッと持ちこたえた。


「おーい、起きろー。寝るにしてもこんなとこで寝んなよめんどくせーな」

「んんん、あれぇ…シカマルの声だぁ。……いい夢」

「勝手に夢にすんな」


とりあえずようやく自分のことを認識してくれたことに安堵する。

盛大に溜息一つ吐き出すと、俵のように担いで「邪魔すんぞ」と勝手知ったる敷地に足を踏み入れた。

幼馴染というのはこういう時便利だ。

物心ついた時にはもうそばにいて、そこから考えるともう10年以上の付き合いになる。


「うぅ…お姫様だっこぉ」

「落とすぞ」

「僕にとことん甘くて優しい優しいシカマル君はそんな事しませーん」

「…。つか起きたなら自分で歩け」

「すぴー」

「おい」


出会い頭に比べていくらか口調が流暢になってきたことを指摘すると再び全身脱力させるコヤ。

本当に落としてやろうかと一瞬でも脳裏に過った時、耳元で彼女の嬉しそうな笑い声がこぼれ落ちてきてどうでもよくなった。

どうやら完全に目を覚ましたらしい。

顔は見えないが満足そうに頬を緩めている姿が目に浮かぶ。

自分に甘えるようにしがみついたままの彼女が「シカマルの匂いだぁ」なんて甘えているのがいい証拠だ。


(人の気も知らないで)


部屋着、無防備な姿、甘える彼女、二人きりの室内。

これだけの状態で保たれている自分の理性に拍手を送りたい。

誰に対しても隙だらけな彼女だからこそ心配は尽きないが、他には見せない甘えを自分には出してくれるのをシカマルは知っていた。

足で適当に広げた布団に彼女をおろしてやると「足癖が悪いんだぁ」なんて彼女が笑った。

人に運ばせておいて文句ばかりの彼女だったが、その瞳も口元も愛おしむような甘ったるいものに違いなかった。


「おかえり、シカマル」

「おう。わりぃ遅くなった」

「ううん無事に帰ってきてくれて何より。長期任務で疲れてるのに寄ってくれてありがとう」


改めて向かい合うとコヤは両腕を伸ばしてハグを求めた。

数週間ぶりのコヤを力いっぱい抱きしめると自分だって徹夜明けのはずなのに眠たさも疲れも全部あっという間に吹き飛んでしまうから不思議だ。


「待たずに先に寝とけって送ったろ」

「うん、でももうすぐシカマルに会えるんだーって思ったら待ち遠しくなっちゃって」

「…悪い」

「もう、すぐ謝るー。ほら、シャワーでよかったらどうぞ。それよりも何か食べたい?」


コヤが腰を持ち上げ居間の方に行こうとするのを手を引いて引き止める。

そのままくい、とちょっと力を加えただけで華奢な体躯はいとも簡単に元いた場所へと戻された。


「なんかお前の顔見たら眠くなってきたわ」

「ふふ、相当気を張ってたんだね。じゃあ一緒に寝よっか」

「おう」


何度も出入りしているだけあって着替えの一枚や二枚は置いていくようになってしまった。

洗面所には二本の歯ブラシ。

居間には二人のマグカップ。

一人だとまるで生活感のない彼女を気にかけてこの家に入り浸るようになって数か月になる。

この半同棲のような生活もまだ少し先の未来のシミュレーションをしているようで悪くはないが、そろそろ次のステップに進む頃合いかとシカマルは思慮する。


「おやすみシカマル」

「あぁおやすみ」


起きたら言うか。

消えゆく意識の中で先に寝息を立て始めた彼女の額に口づけを送りながらそんな事を考えていた。















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