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(阿部隆也)














 また明日。














「んあ…今何時」




寝起き特有の声でまだいるであろう人物に尋ねると、


彼はヘッドホンを少しずらして「11時」と短くぶっきらぼうに答えた。


んー、とこもった言葉を漏らし、かなではむくりと


布団の上に座り込む。目を何度かぱちぱちとさせて


おきなくては、と睡魔と戦っていた。




「ねんむ」


「部活からのバイトだもんな。お疲れさん」


「いやいや隆也のほうがきついっしょ」


「俺、男だし」


「なんじゃそりゃ」




他愛もない会話。


またはあじっけのない会話。


10年を超す付き合いともなればこんなもんだろうか。




「たかやー」




片手で目をこすり、あいた片手で彼へと手を伸ばすと


彼は自然と腰を持ちあげ自分の座る布団の中に入ってきた。


そうして包むように抱きしめてくれる。


左耳同士がくっついる。彼の短い髪がちくちくと刺さった。




「最近は楽しそうね」


「そ?」


「ふふん。なんとなくそんな気がする」


「ふーん」




腕をつねったり、肩に顔を埋めたりと甘えてみる。


したいだけさせてくれるのは彼の実はちょっぴり優しい部分。


首に歯を立てようとするが、それは流石に止められてしまった。


ちぇ。




「今日どうすんの?」


「朝早ぇし、こっからいくわ」


「おっけ。朝希望ある?」


「卵焼き」


「りょ」




就寝準備に入る彼。


そしてかなでも目覚ましのセットをする。


高校からはかなで宅のほうがかなり近い。


通学時間短縮のために利用することもしばしば。


理由はそれ以外にもあるだろうが。




「明日バイトねぇなら顔出せよ。モモカンも喜ぶんじゃね?」


「あーどうすっかなぁ」


「久々に球捕ってやろうか?」


「あはは、またへなちょこだっつって笑われるじゃん」


「実際へなっへなだしな」




悪態ひとつ。


そうして電気をかちりと消した。


充電器にスマホをつなぐと二回のバイブ音がした。


隣では同じくスマホ画面で一日の最終チェックをする彼の姿。




「それでもま、役には立つんじゃね?」




ふーん、と返す。


一つのタオルケットをまくり上げ彼は隣の彼女にかけてくれる。


横向きになると自然と彼と向き合う形となった。


彼の手が上からかぶさって包まれるような感じがした。


温かい。


薄く目を細めて微笑むと額にチュッと口づけされた。




「なら、一緒についてこっかな」


「おう」




お互い言葉は荒っぽくぶっきらぼうなもの。


不器用ながらのやさしさを交えて今日も恋人らしく身を寄り添う。


温かい温度の中に互いが好き合う、いいにおいがした。


かなではもぞりと体を動かして彼の耳たぶに歯を立てた。


彼は盛大にため息をついて「明日も早いんだけど」と身を起こした。


彼女はにこり、と微笑んで“それを”肯定した。









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