(DQ11・カミュ・魔物使いヒロイン)









 Ash 始まり









『大切なお客様にケガなどさせません。楽しんでいただけたでしょうか?』


その言葉をきっかけに会場はどっと歓声が沸き、まるで止まない雨のように

拍手が延々と鳴り響き、二人の流浪旅芸人を包みこんだ。

二人は慣れたように背中同士を合わせ、それぞれ反対方向の観客へと頭を下げる。

サーカス団の団長がすかさず言葉で会場を締めくくるが、

その熱気はしばら収まることはなく、その活気は一晩中続いたという。




 +




ちゃん」


なじみ深い声に呼ばれて、ふわっと表情を綻ばせる

出会ったころの彼女からは想像もできない表情に、名前を呼んだ本人、

シルビアは内心「笑顔が沢山見れるようになって嬉しいわ」なんて思う。

は今までしていた商売道具の手入れをいったんやめて、彼に向き直った。


「シル、お疲れ。ナイフ、お花に変わるの、素敵…」

「あら本当?嬉しい。ちゃんも相変わらずの魔物捌きで興奮しちゃったわ」

「…ここの子、いい子。お客さんも、いい人」

「ふふ、本当にそうね」


これでも口数や語彙が増えた方だ。会話ができるほどに。

出会った頃は言葉どころか表情ですら乏しいものだった。

…まるでそれは手負いの獣のよう。



片言でもなんとか知っている単語で話そうとする必死さが愛らしくて

シルビアは彼女特有の白い髪を軽く撫でた。

髪を伸ばせばいいのに。お手入れだってしてあげる、って話をした次の日には

自分で切ったのかショートのウルフカットにしてしまう。

まぁ、どんな髪型してたって可愛いんでしょうけどね。

くすぐったそうに身をよじる。揺れる白髪。まつ毛だって、白い。覗く赤い瞳。



アルビノ種。



先天的な遺伝子欠損により、肌や髪色が白くなるもの。

街を歩いているだけで目を惹くその容姿は決してそれだけではないのだけれど。


ちゃんは、この町好き?」

「…?……」


目を泳がせる。目を泳がせる時は大抵言いたいことが伝わらなかったときか、

言葉を選んでいる時。今回は後者だ。

シルビアは商売道具の片づけを手早く手伝いながら返答を待つ。


「好き。でも、旅、やめない。シルについてく」


自分たちはあくまで旅芸人。拠点を持たずに各地を転々としている。

はどうやら気に入ったのならここにいてもとシルビアの言葉を捉えたようだった。


「そう。…わかったわ。不安にさせちゃったわね。

 置いていこうなんて思ってないから安心していいのよ?」

「うん」

「しんみりしちゃったわね。さ、町に繰り出すわよー!」

「おー」


シルビアに合わせてこぶしを突き出す

年齢でいうと間もなく20にもなりそうな年頃。なのに幼く思わせる。

先ほどまでドラゴンを巧みに操り、乗り回していたとは思えないほどに。


「(育ちが育ちだものね…。この子には色々な経験をさせてあげなくっちゃ)」


どちらかと言えば家族に近い思いを馳せるシルビア。

彼女と出会い、数年になるが彼女の分かっていることは正直少ない。


「(どこで生まれたのか、家族は、年齢は……ううん、そんなことはどうでもいい)」


ただ。


「(この子の笑顔を私は守りたい…)」


それが私の騎士道だ、と改めて思いを確認すると彼女の腕をぐっと引いて

サマディの町に繰り出していく。


「シル」

「なあにー、ちゃん」

「さっきね、お客さん、綺麗な目の人、いた」

「うそぉ!もう言ってくれればいいのに!」

「………シルが好きなマッチョ、違う」

「目が綺麗な人に悪い人はいないわ。えー、会えないかしらー?」

「会えそう、予感、する」


言葉にしてみると改めてまた会える気がした。

あれだけの観衆の中から一人、特別目を惹いたもの。

予感。




それが邪心を倒すべく生を受けた勇者のものだと気づくまであと数日。

後に共に旅をするようになるなんて、当時の二人には知るよしもなかった。









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