(DQ11・カミュ・魔物使いヒロイン)









 Ash  野生









『魔物に育てられた子』


その言葉の印象が強すぎて、より一層彼女に対する不信感が強くなってしまった。

立ち振る舞い。

物の飲み食べの仕方。

言葉遣い。

身のこなし。

普通に生活していればなんてことないことまでじっくりと観察してしまうのは

彼女に「魔物らしさ」が感じられないからだろう。

そりゃあそうだ。

彼女は人間だ。

そうは思っていても言葉による印象があまりにも強すぎて、

カミュの脳内は不思議と不信感を消せずにはいられなかった。




 +




今いるのは町から少し離れた森の中。

魔物は多いがここを抜けるのが一番の近道だと聞いて、虹色の枝を

求めている勇者一行は急ぐようにその足を進めていた。


「暑さに比べたらこのくらいひんやりした方が気持ちいいわね」

「ベロ、暑いの、嫌い?」

「そりゃあそうよ。照り返しに何度倒れるかと思ったもの」

「私も、ここの方が落ち着くな」

「………」


魔物の多いこの場所が落ち着く。

きっと本人この静けさと静けさが過ごしやすいという意味で発したのだろうが

生憎カミュの耳には前者に変換されてならなかった。


「どうしたのカミュ。さっきから黙ってばっかだけど」


小声でイレブンが言う。

流石この中で一番付き合いが長いだけあって、変化に気づくのは早い。


「いや」


言葉を選ぶ。

がしかし、考えれば考える程仲間に不信感を抱いている嫌な奴として思えずに。


「なんでもねえよ」


とはぐらかすことになってしまった。

「そう?」なんて言いながらも引っ掛かりを覚えているイレブンを横目に

カミュはちらりと特段目を惹くアルビノ種の彼女を見やった。


「魔物が多いって聞いてましたが、今のところ凶暴なのは出てませんね」

「…繁殖期の奴ら多いから、八合わせると危ない。縄張り、避けてる」

「さっすがちゃんだわ」

「すごい、縄張りまでわかるんだ」

「……」


後から聞いたことだが今の沈黙は彼女なりの照れらしい。

サーカスではあれほど出来ていた笑顔もシルビアから仕込まれた

営業用の物なのだと後から気づかされた。

彼女は普段は表情が少なく反応も薄い。


「滅多な特技だな」


合わせて言い放ったつもりだったが自分でもその声色の違いに

他のそれとは浮いてしまったことに気付くカミュ。

え、となってしまった空気。流石に本人も気まずさが伝わる。


「滅多…そう、普通じゃないのか。あたしずっとこうだったから」

「お陰で助かってるんだからいいじゃない!

 長旅になるんだったら体力だって温存したいし。ね、カミュちゃん」

「……。ま、まぁ、戦闘が最小限に抑えられるのは有難いけどな」

「ほらあ」


気を回すのはおそらくこの場で最年長のシルビアだ。

さ、気を取り直して虹色の枝目指して進むわよー!と

空気を一変してくれる当たり流石に気が利く。


「……」


「クールな彼が珍しい」と内心相棒の動揺を感じるイレブン。

そしてもう一つ、カミュの背中を刺すように睨みつける存在に

カミュは鬱陶しそうに「なんだよ」と言い放った。ベロニカだ。


「…別に、なんでもないわ」


あきらさまに不機嫌じゃないか、と返してやりたくもなったが

これ以上自分のせいで仲間たちの雰囲気を壊すのも、と思い自重する。

空気を悪くしたな、という思う反面やはり根っこの部分には

彼女の得体の知れなさがどこか引っかかっているのだろうとカミュは感じていた。




 +




それから時間としては一時間ほど経っただろうか。


「…っつ」

「………」


カミュは先ほど枝にひっかけた右腕をぐっと抑えて周りを見渡して

今の状況を頭の端で冷静に分析する。

意外と華奢らしいの体はすっぽりと自分の腕の中に納まっている。

アルビノ特有の白髪の隙間から覗いた表情は険しいながらも

無事であることを確信させてくれるれ、カミュは内心安堵する。


「(ちっ…しくじっちまったな……)」


俺としたことがしくじった。

あれほど彼女が警告していたというのにその些細な獣の変化を見逃した。

話を聞いていなかったわけではない。

ただただ油断した。

彼女が繁殖期の獣たちを避けて進んでいることはわかっていたはずなのに。


『なんだ…この樹。傷が…』

『それ、縄張り争いあったあと…。この辺、いると思う。気配する』

『…。気配までわかんのな』

『………』


魔物に育てられた子。

仲間として迎えつつも、しこりが消えない。

切り替えられない自分に自己嫌悪しつつ林道を歩いている時、

パチ、と弾いた小石にが咄嗟に身構えた。


『来る…!構えて!』

『…!?』


それは突然に起こった。

見るからに今までの獣とは違う明らかに気の立っている殺気。


…!』


咄嗟に動いたのはだった。

反応の遅れている仲間に変わってまるで囮にでもなるように獣の前に出た。

愛用の短剣を逆手に二刀流にして身構え、そして、意図も簡単に薙ぎ払われる。


『くそ…ッ!』


崖から転落、待ったなしだった。

の赤い瞳が大きく見開き、救いを求めようと手は伸びた瞬間、

それを掴んだのはカミュだった。




そして今にさかのぼる。




「(イレブンたちが心配だ。…早く合流しないと)」

「ん…」

「気が付いたか…?」


腕の中で身じろぐ


「カミュ…」

「痛むところはないか?」

「ん、平気。あっ…」


右腕を抑えていることに気付いて、は表情を歪める。


「ちょっとひっかけてな。これくらいほっといても」

「ダメ。化膿したら大変」


そういうとそっと手を当てて集中する。傷口が消えたのは間もなくの事だった。

ホイミだ。

淡く優しい光が包み込み痛みが引いていく様子を見つめ、

カミュは今までのごちゃごちゃした考えがすっと消えていくのを感じていた。


「悪ぃ」

「ううん。カミュ、私を庇ったから…」

「違う、そうじゃなくて」


後ろめたそうに目を伏せる

そんなに向きうようにしてカミュは話しかける。


「その…今まで態度悪くて悪かったな」

「…?」

「いや…なんつーか」

「……」

「あー。とりあえず、顔あげろよ」

「………」


頭をガシガシとかくカミュ。

話は聞いているようだが、先ほどから俯いていて目が合わない。

片言だし、目は合わないしで相変わらず変な奴だ。でも…話せばわかるやつだ。


「カミュ、あたしのこと嫌いだって」

「感じ悪かったよな。悪ぃ…。嫌いとかは思ってねーよ」

「……」


ぱっと顔を上げる。ぱちりと目が合う。

間近で見る彼女の顔は野生を感じさせないほど整っていて、不覚にもドキリとする。


「そっか」


ほっとするような表情を浮かべる。表情がほころぶ。

自分に安心した表情を見せる彼女は、よっぽど人らしいと思えた。


『―――』


「!」

「あぁ、イレブンの声だ」


遠巻きで聞こえる自分たちを呼ぶ声。

は神経を集中させると声のする方までのルートを考え始めた。

長年盗賊をしているが、地の利は彼女の方が上らしい。


「頼むぜ、サン」

「…ついてきて」

「ほんと、頼もしいぜ」


安全な足場を見つけては崖をよじ登っていく

身軽さ。器用さ。そして土地勘。経験。

相変わらず片言なその喋り方も、ぎこちない表情も変わることはないが

カミュの中で彼女への見方がほんの少し変わっていったのは明らかだった。


「(ま、変な奴って事には変わりないけどな)」


はぁ、とため息をつくと、カミュはに続くべく地を蹴った。














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