(DQ11・カミュ・魔物使いヒロイン・時系列バラバラ)









 Ash  読書









「ベロ、ベロ…」


旅をしていて気づいたことだがの集中力はかなり高い。

指先や頭を使うパズルや玩具を見つけると、食事や睡眠の時間を忘れて

それに打ち込んでしまうから困りものだ。

読書もその中の一つだ。

けれども読書の場合、知らない単語が出てくる度にこうやって

近くの仲間を捕まえては教えてもらったりするようだった。


「あら、今度はどこがわからないの?」

「ここ…ひとつ、日……??」

「ここね。ひとつと日って書いてある日、って読むの。熟語っていうのよ」

「ある日」

「そう。よく出てくるものも多いから読みながら覚えていくといいわ」

「うん。ありがとう、ベロ」


ぺこりと律義にも頭を下げると、それをひらひらと手を振って見送るベロニカ。

何の変哲もない、よくある風景だった。




 +




剣を研いでいても、鍛錬の途中でも、食事中でも手を止めての話を聞く仲間たち。

カミュとて例外ではないのだが、如何せん勉学に精通しているわけではない為

毎回聞きに来るたびに「わりぃが他の奴に聞いてくれ」とあしらっていた。

落ち込むでも気を損ねるわけでもなくあっさり頷く彼女は

本当にどこぞの魔法使いに比べ、理解がいい。


「………」


ててて、と本を小脇に抱えてまたがドアノブを開けた。

シルビアか、ベルニカか、ロウか…。

きっと聞きやすいそのあたりを探していたようだったが、生憎三人とも

買い出しやら聞き込みやらで外出していて戻るのはまだしばらく先の事だろう。


「あいつ等なら出かけてっからまだしばらくは戻らないと思うぜ」

「…。カミュ」


名前を呼ぶだけ呼んだかと思えばわかりやすく肩を落とす


「またわかんねぇとこあったのか?」

「知らない言葉多い。初めて読むの」

「へぇ、何の本?」

「星の王子様。セーニャ、アイドクショ」

「…なんか、いかにもって感じだな」


興味を示すと心細そうにしていたさっきまでの表情が嘘みたいに晴れ、

嬉しそうにカミュの元に駆け寄り、本を見せる


「カミュ、わかる?」

「あー、読んだことはねぇけど。まぁ童話くらいなら……どこだよ」

「!……ここ」


目を輝かせてぴらぴらとページをめくる。


『君がバラのために使った時間が長ければ長いほど

 バラは君にとってとっても大切な存在になるんだ。』


それは王子が言った言葉の一文だった。

難しい単語ではなかったことにほっと胸をなでおろすカミュ。

人差し指で単語をなぞる様に滑らせ、訳していく。

本を覗き込もうとがぐっと距離を縮めたものだからそのことの方に

カミュはどきり、としてしまった。

シャラ…と鎖が鳴る。

首元に取り付けられたままの鎖が嫌でも目に入ってカミュはすぐに目をそらした。









『実はこの子、ちょっとワケ有りなのよねぇ…』









出会って、一緒に旅をすることが決まった夜。

たき火を囲むようにキャンプをしている中、シルビアが切り出したのを思い出す。


『訳あり??』

『どういうこと?』


イレブンとベロニカが問う。すると、シルビアが先に眠る彼女を横目に

言葉を選ぶようにしてゆっくりと紡ぎ始めた。


『私も数年前に旅している最中に出会ったのよ。ストレートに言うと…売り物小屋で』

『!』


売り物、という言葉。中々聞き馴染みのない刺激の強い言葉に一同唖然とする。


『魔物に育てられた子、って売り出されてたわ』

『…そんな』

『出会った頃は、本当に手負いの獣のようで話すことも、笑うこともなかった』

『可哀想ですわ…。どうしてそんな』

『私も生い立ちはわからない。アルビノって事で捨てられたのかもしれないけど

 あの子がそれを話さないから、私も聞かないことに決めたの』


そこまで話して、辛気臭くなってごめんなさいね、と話すシルビア。

出会って数年。

本当に魔物たちの中で生き延びた彼女は野生化していたが、

幼少期は人間の中で暮らしていたようで言葉で思いを伝えようとしたり、

わからなくてもじっくりと相手の言葉に耳を傾けたりと知性は高いようだった。


『だから…ちょっと言葉が足りない事があるけど

 あの子に悪気があるわけじゃないってことを伝えておくわ』


言っている言葉の意味はわかるみたいだから

ゆっくり話してあげれば会話もできるし、と濁すシルビア。




「カミュ…?」


彼女の声で現実に戻るカミュ。

ぱちりと合う視線。色素の薄い赤い瞳。白の髪。小雪色の肌。

研いでいた短剣をしまった今、手持無沙汰になった両の手がぶらりとぶら下がる。


「わり、ぼーっとしてたわ」

「考え事?」

「…まぁ、な」

「そう」


シャラ、と重たい鈍色が音を奏でる。

寝る時も起きてる時もこれが近くで鳴るのはどんな気分だろうな、と想像する。


「それ、取らねぇの?」


顎で指示したのは彼女の首元に取り付けられた、鎖。

想像するに、きっと、売られていた頃の物だろう。


「昔、これ嫌いだった。煩くて、痛くて、冷たくて」

「それだったら」

「でも。シル、断ち切ってくれた。私に自由くれた」

「…!」


何かしらの工具を使えば断ち切れるであろうものだが、にとってこれは

目に見えるかたちでの「つながり」だといいたいらしい。


にとってこれはお守りみたいなもんなんだな」

「!……そう、おまもり。」

「(こんなもんなくても大丈夫って思えるようになるといいけどな)」


束縛するもの。拘束していたもの。自由をくれたもの。

見える形で置いておきたい彼女なりの背負っているものを感じて

カミュは鎖をそっと撫でながらそう思った。


「バラのために使った時間が長けりゃ長いほど、か」

「?」

「いいや、なんでもねえ。は大事な仲間ってことだ」

「ふへへ」


顔をほころばせる彼女。年相応に見えるあどけなさ。


「………」

「まぁ、付き合いが長けりゃながいほど大事なもんになるってことじゃね?」

「………」


一つ目の沈黙は「どういう意味だろう」の沈黙。

そして二つ目の沈黙は「それって私にとって」の沈黙。


「付き合い長い…シル大事。でも、みんなも大事」

「これから長い付き合いになるだろーし、大切なもんも増えてくんだろうな」

、カミュ大切」

「…なんか、本当お前ってドストレートだよな……」


言葉数が足りない分、回りくどさがない。

貴方の事を大切に思ってます、と言われて嬉しくないわけではないが、

如何せん相手に他意がない分気恥ずかしい。


「カミュは?大事?」

「……あぁ、大事」

「カミュ、大事…!」


それだけ言うとぱあっと顔をほころばせる

たまにしか見えない笑顔に目を奪われる。

本当に不思議な存在だ。


ちゃーん!お土産かってきたわよーん!』

「…!」


お土産、のキーワードに反応して飛んでいく

置き忘れられた一冊の本を閉じて、カミュは愛刀の手入れの続きをすることにした。









後日、「カミュ、の事大事って言ってくれたの」という発言から、


「ちょっとアンタ、カミュ!いつの間にのことたぶらかしたわけ!?」

「そうよ!ちっともそんな雰囲気じゃなかったじゃない!どういうことなの!?」


とベロニカとシルビアの二人から責め立てられたというのはまた別のお話。














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