(DQ11・カミュ・魔物使いヒロイン)









 Ash  同郷









クレイモラン。

世界の北西に位置する雪国。

はぁ、と吐きだしたと息が白く光ってうっとりしてしまうほど。

さく、さくとまだ降ったばかりの新しい雪を踏みつけて


「(ただいま、クレイモラン)」


と内心は呟き、そしてぎゅっと目を閉じた。




 +




「私、ここで待ってる」


オーブの反応はあるものの人気がない。

門は氷で閉ざされ、耳を澄ませてみてもにぎわう声はおろか

まるで国中が氷漬けにでもあっているかのような不気味な静けさが漂っていた。

門をくるりと回ったところに入口を見つけ、中の様子を探ろうと

イレブンが言い放った矢先の事だった。がそれに続いて言葉を発したのは。

すっかりのお姉さん的存在、ベロニカが慌てて言う。


「何言ってんの?こんな状況なのよ?一人置いていくなんてできないわ」

「そうですわさん。魔物が近くにいるかもしれませんし」

「……ごめん」


理由を語らず、困ったように目を伏せるだけの

彼女なりの言えない何かがあるのだろう、とロウはに微笑みかけた。


「俺もここで待ってりゃあ問題ねーだろ。悪いが中の事は任せていいか?」


そうカミュが切り出せば首を横に振るものは誰もいなかった。

心配そうに振り返る仲間たちにぎこちなく―それでも出会った頃より柔らかくなった―

笑顔で裏門から中に入る仲間たちを見送ると、くるりとカミュに向き直る


「ありがとう、カミュ」

「何が」

「庇ってくれて」

「いや…」


バツの悪そうに渋らせるカミュ。


「礼を言うのは俺の方っていうか。…まぁ、なんだ。ここじゃ冷えるし移動するか」

「…うん。近くにキャンプある。薪、用意する」


そう言って、てててと雪道を慣れた様子で駆ける彼女の後姿を見て確信する。

彼女は。は、この地域、クレイモランの出身だろう。

おそらく、俺と同じ――。


「おい、おんま走んなよ。雪に埋もれた枝に引っかか――」

「へあっ」

「あぶ!……ほら、言わんこっちゃねえ!」


まるで予知でもしたようにカミュの言った通りのシチュエーションを再現した

顔中についた白をはらうかのように顔を振る。

カミュはその光景に「犬かよ」なんて乾いた笑みを浮かべながら

鼻の上についた雪のかけらを取ってやる。


「ふふ」

「な、なんだよ」

「ううん。雪、懐かしい。嬉しいの」

「お前、あれだけ中には入りたがらなかったくせに、外では元気なのな」

「へへ」

「っと、じっとしてろよ」


そう言われてぴたりと動きを止める彼女は本当に素直だ。

アルビノ特有の真っ白な髪についた泥を指でつまむとすっとそのまま撫で下ろす。

その一部始終を一秒たりとも目をそらさずに見つめるものだから

カミュは「そんな見んなよ」と照れを隠すように顔を背けた。


「カミュの目きれいね」

「!」

「イレブンも真っすぐで好きだけど、貴方のは――」

「お前って本当…っ!」

「わわ」


彼女が言い終わる前に遮るようにガシガシと頭を撫でまわすカミュ。


「(恥ずかしい事簡単に言いやがって…!)」


どちらが年上かわからなくなる。

否、歳など関係なく彼女の前では調子が狂わされてたまらない。


「ふふ、カミュったらへんなの」

「(誰のせいだよ、誰の)」

「…。あたしね、この街で生まれたんだぁ」


ちょっとだけしか、いなかったけどね。と寂しそうに紡いで、

は手慣れたようにたき火の準備を始める。

小さな火種が薪へと燃え移り、それは大きな炎になった。


「アルビノって、この地方では魔女の使いって言われてるんだって」

「…聞いたことある。けどそれは言い伝えだろ?」

「でも町の人たちは怯えてた。勇者誕生も、あって」

「……勇者誕生するとき、魔王も復活する、か」

「そう。そんな時に生まれたもんだから、あたし……」


言葉を失い目を伏せる

初めて出会った日の晩、シルビアは彼女の事を「魔物に育てられた」といった。

つまりはこの街で生まれたが、アルビノという理由だけで

この街を追い出されたのだろうと言葉は聞かずとも容易に想像できた。



まだ、小さかっただろう。

こんな雪国だ。

食べるものも少なく、寒さに耐えしのぐ日々だったに違いない。

そんな彼女の事を想い、カミュは無意識のうちに彼女を腕の中に収めていた。


「もう話さなくていい。頑張ったな」

「…」


抵抗はしなかった。

すっぽりと収まって居心地のいい場所を見つけると、

目を細めてそのぬくもりを噛みしめているようだった。


「ねえ、カミュ」

「ん?」

「どうしてあたしと一緒に待つって言ってくれたの?」


ふと浮かんだ疑問をおそるおそる言葉にしてみる。


「ほっとけなかった、ってのが一番だが…」

「…?」

「……。俺も、と同じようにこの街出身なんだ。けど、この場所に来ると――」


何かを察したのか、は優しくカミュの頬に触れ首を横に振った。

「大丈夫」と言わんばかりに微笑む彼女。


「…サンキュ。ちゃんとその時になったら伝えるから」

「うん。待ってる」

「ん…」


同じ場所に生まれ、いろいろあったが今こうして仲間として旅をしている。

今はまだ、そこまででいい。

急ぐことはない。

厚い氷で閉ざされていた心が触れ合ったその場所から溶けて行けるように、

じっくりと、ゆっくりと、かかった分の時間をかけていこう。




「なあに、カミュ」


ただ、これだけは譲れない。




「好きだ」




いつからか惹かれていった。

否、出会った時から、実は気になっていたのかもしれない。

空気に乗って言葉が伝わる。

彼女は俺の目を綺麗といったけど、俺からすりゃ赤いの瞳の方が綺麗だと思う。

目を大きく見開く彼女を見て伝わったことを確信する。

いまはただ、それだけでよかった。














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