(DQ11・イレブン・魔物使いヒロイン・時系列バラバラ)









 Ash  宣戦布告









ちょんちょん、と袖を引く。

すると服の主であるイレブンは怒るわけでも咎めるわけでもなく


「どうしたの?」


と言葉数の少ない彼女の方を見て微笑みかける。

彼の穏やかな性格が彼女の波長と上手く相まってのんびりとした雰囲気が流れる。

そんな二人も戦いとなれば目つきを変えて一人は大剣を、

そして一人は爪を装着して振り回すコンビネーションだ。


「シル、どこ?」

「シルビア?あーえっと……」


思考を巡らせる彼に疑問1つ。

小首をかしげて彼の綺麗な瞳を見つめると誤魔化すようにそらされてしまう。

ぱちぱち、と瞬きをすると彼はへたくそな笑顔を作って

「ごめんね。僕も知らないんだ。買い物じゃないかな」とだけ言う。


「買い物かあ」

も行きたかった?」

「うん」

「ふふ、シルビア大好きだもんね」

「好き。安心する」

「そっか」

「イレブンも好き」

「え?」

「ベロも、セーニャも、おじじも、好き」


そっか、と肩をすくめてしまったのは儚い期待を

してしまっていたからなのかもしれない。

指折り数えていく彼女に部屋の水差しに入っていたハーブティを

用意してカップを二つテーブルに並べると目を細めてそれを喜んだ。


「カミュは?」

「好きよ。でも、怖い」

「怖い?」

「うん」

「まあ、言葉は雑だったりするのかなあ」


男同士だと気づかないものだが、彼女は女の子。

それもシルビアが引き取ってからは大切に大切に育てられている。

出会った当初はカミュも「魔物に育てられた」なんていう彼女の過去に

やたら警戒していた節もあるからそれも理由の一つなのだろうと思う。

女子たちに言わせたら「くっつけたら面白そう」という2人。僕はそうは見えなかった。


「他には何が好き?」

「私の好きな物?」

「うん。聞きたい」

「んー」


真面目に考え込む彼女は手の中のハーブティの事なんてすっかり忘れている。

目をぱちぱちさせて考える姿にかわいいな、なんて。


「あ」

「ん?」

「プリン、好き」

「へえ。甘いの好きなんだ」

「シル、貰う。よくくれる」

「そっか」


言葉は相変わらずたどたどしい。

まるで異国の言葉を扱うかのように探り探りだ。

でも、それでもいい。

今この穏やかな時が永遠に続けばいいのに、とさえ思う。

プリンか。うん。よし覚えた。


「じゃあ、今度僕とも食べにいこっか」


そういうとわかりやすく目をキラキラさせる

喜びを全身でめいいっぱい表現してくれる彼女は自分よりも幼く感じさせた。

歳でいうと同い年の彼女。まるでデートみたいだ。

なんて、相棒に話したらどんな顔をするだろうか。


「行く」

「じゃあ、約束」

「……知ってる、これでーとって言うんだ」

「……そんな言葉どこで覚えたの」

「ベロが教えてくれた」

「あぁ、ベロニカ」


面倒見のいい双子に可愛がられている

博識な2人聞くことも多いらしく、その度に二人は笑顔で応えた。

着々と(余計な知識も含め、だが)身の回りの様々なことを知り始めている。


「じゃあデートの約束。その日、お嬢さんの一日を僕にください」


16年生きてきて一度も言ったことのない台詞。

けれども貴方はきっとこの言葉の意味を、想いを、知らない。

それでもいいや。


さ、じれったい相棒に宣戦布告ののろしをあげようか。














(今はまだ許してくれるだろ?) inserted by FC2 system