(吹雪)snowdrop番外編(僕のプリンセス)














 My princess














『ほんっとお前って鈍臭いのなー』




アツヤの声。いつもの憎まれ口。でもなんか許しちゃう。


言葉は荒っぽいけど。ほら。私に手を差し伸べてくれる。


スカートに着いた雪を「あーあもう…」と掃ってくれる。少し痛い。




『アツヤがグイグイひっぱるからだよ。…大丈夫?すりむいたりしてない?』




士朗の声。温厚な声色にホッとする。双子なのに、少しずつ違うって不思議。


しゃがみ込んでの膝小僧を覗き込んで「うん、大丈夫そう」と微笑みかける。


そんな二人にはスカートの裾を握りしめてぎゅ、と目をつぶった。


我慢しなきゃ、困らせちゃう。


そう思ってるのにまつ毛が潤って次第にこぼれおちた。


二人が一瞬ドキリとしたのがわかる。




『お、おい!どうしたんだよいきなり泣き出して…』


ちゃん、どこか痛いの?泣かないで』




ゴシゴシと袖で目元を拭いて二人の手をぎゅっと握った。


困惑する二人にはぐちゃぐちゃに泣きながら




『 ふたりともだいすき 』




と何とか言った。


面を食らった二人。そして一気にニカッと笑った。


真っ赤になった瞳。真っ白な髪も手伝ってか「うさぎみてぇ」とアツヤはいった。


「可愛いうさぎさんだね」って士朗は言った。もつられて微笑んだ。


幼き日の出来事。









 +









ちらりほらりと粉雪が舞い降りる。


だけど北海道のこの季節。北海道民からすると然程珍しくもない。


は真っ白のふわふわの髪の毛を櫛でいつもより丁寧に梳いて


鏡の自分と目を合わせてぱちぱちと瞬きをした。うん。寝癖はなさそう。


何となく。自分が彼の眼にどんな風に映ってるのか、なんて気になって


鏡目線でさらり、と髪を耳にかけてみる。


男の子ってどんな女の子が好きなんだろう。どんな仕草が好みなのかな。


そんなことを急に意識してしまって


赤面しながら慌てて鏡から視線をそらした。うう。


真っ赤な顔した自分を鏡越しにちらりと見えてまた、紅潮。


馬鹿だなぁ、なんて自嘲しつつ彼らにもらった髪飾りを髪に通す。


きらり、と優しい光が反射してついつい指先でなでてしまう。もう毎日の日課かも。


大事な人たちからもらった一番の宝物。ふふ。笑みがこぼれちゃうな。




こんこん、と軽いノックがあってははっとなった。


鏡に遊ばれていた間に時計の針はいつもより少し早く進んでいたみたいで


は身だしなみの最終確認をしてドアノブをそっと開けた。


そこには例え密集する人ごみの中でも見間違える事のない


幼馴染の士朗君がいた。なんら珍しくもないジーンズとパーカーなはずなのに


ジャージ姿の方が印象が強いせいかなんだかトクベツに感じてしまう。




「わぁ…」




士朗君の第一声にドキリ。やっぱり赤チェックのスカートなんて派手だったかな。


次の言葉をうかがいつつもちらりと彼の眼を見たとき


にっこりと笑う彼を見てあ、変じゃ…なかったのかも。と内心安堵する。


どう思われてるかなんてわからないけど、これが精一杯のおしゃれです。なんて。


そんなのじゃなくても「今日は頑張っちゃった」とか「どうかな…?」とか。


それだけでもいいのに。ちゃんと自分の言葉で言えたらいいのに。私の意気地なし。




「じゃあいこっか、。…っていってもただの散歩なんだけど」




ふふ、と微笑む士朗君。関係ないもん。近くに行くときだって、遠くに行くときだって一緒。


こうやって誘ってくれるのはとてもうれしい。


思えばずっと前から誘ってもらってばっかだなぁ、私。


小さなころはよくあの窮屈な家からなんだかんだ理由をつけては


よく連れだしたくれたっけ。あの頃から私、甘えっぱなし…。


いい加減愛想尽かされてないといいんだけど…はぁ。




「その髪飾り…」


「?」


「まだ大事に取っててくれてるんだね」




私の歩調に合わせてゆっくり歩いてくれる士朗君の隣を歩きつつ


髪飾りに一瞬触れてみた。そしてなんだか褒められたような気持になって微笑む。


気付いてくれるのって…なんか嬉しいな。




「あの頃の僕達のお小遣いで買えるような安物の奴だから…なんか悪いな」




あははと頭をかく仕草に私はふわふわの髪の毛をいっぱい揺らして首を振った。


そんなことないよ、すっごく嬉しかったんだもの、私の宝物だよ。


言いたい言葉が脳裏に沢山湧き上がる。何か言わなきゃ。伝えなきゃ。


決死の思いで顎を少し突き出しくちびるをふるわせる。ああもう意気地なし。


そんな何か言いたげな私の雰囲気を読み取ったのか士朗君は「ん?」と待っててくれる。


奥まで透き通ったビー玉みたいな瞳に見つめられて頭の中に風が通ったみたい。


きっとその時エルフ達が私の言いたかった事を全部風に流しちゃったのね。


頭は真っ白になって私は唇を固く閉ざし静かに首を振った。ごめん、何にもない。


俯く方向に目が動いていた時ちらりと赤いものが見えた。




「…あ」




独り言ほどの小さい声。久しぶりに声というものを出した気がする。


でも今の私はそんなことお構いなしにさっき見つけたばかりの白ウサギに夢中だった。


あとから士朗君も見つけて「白うさぎだ」とのほほんと言った。




「…可愛い」




ぱたぱたと慎重に歩み寄る。きゅー。の思ううさぎの鳴き声をあげてみる。


そんな彼女の背中を見つめて吹雪は白い吐息を吐きだした。




「ホント可愛いなぁ…」




吹雪がそうつぶやくとは子供っぽくにこっと笑って振り返った。


本当にかわいい、


でも…まだ我慢。




“ ふたりともだいすき ”




思えばいつからだったろう。僕ったら意識しっぱなしで。


子供の時に交わしたこの言葉がLikeの意味ってことはわかってるけど。


小さかった僕はそれなりの期待をしちゃったわけで。


でもなんとなく。僕だけが夢中だってことが悔しくて、まだ言わないんだ。


Loveにが気付くまで、あはは、きっと長期戦だ。




…はぁ。














(話すのが苦手で、引っ込み思案で、どこか鈍臭くて…)(そんな僕のお姫様) inserted by FC2 system