(吹雪)snowdrop番外編(パズル関係)














 Puzzle relation














士郎君の居候が決まった。


身寄りを失った彼は当初施設入所という案もあったものの、


親同士が友達同士で、私とも幼馴染という関係もあってか


一緒の家に暮らすということも決まった。養子という形ではなくあくまで居候。


シンケンやらジュウミンヒョウといった難しいお話は


全部お父さんがやってのけた、すごい。


たった数年会わなかっただけでお互いすごく変わっていたと思う。


会わなかった間、お互いにいろいろなものを見てきたというのもあるのだろう。


だからお互いに、今までのちゃん、今までの士郎君として


接するのではなく、リセットした形で少しずつ距離を縮めていく、


という暗黙の了解が出来上がっていた。


こんな風に言ってるけど別に仲が悪いってわけじゃない。


だって、小さいころは良く遊んだ仲だったから。


元々得意だったアイススケートに付き合ってくれたときもあったし、


二人が得意だったサッカーを一緒にするためにいっぱい練習したりもした。


それを今もお互いに続けている。


ただ、ぎこちないだけ。


どこまで相手に踏み込んでいいのか、頼っていいのか、


相談していいのか、話しかけていいのか、わからないだけ。




スッ。




真夜中。


は静かに吹雪の部屋の扉を開けた。二人の部屋は別々。


けれども勉強を見てもらったり、音楽を聴いたり、TVをみたり、


いろんな理由をこじつけてはお互いがお互いの部屋を行き来している。


けれども、相手の許可なく部屋に入っていくのは初めてだった。


といっても当の本人とっくに寝ている時間帯。


こんな深夜に様子を見に来たのには理由があった。


といっても明確な理由というわけではなく。


なんとなく。ただなんとなくという理由で


不安になってしまったというだけだった。ひたひたとフローリングに


はだしを這わせる。できるだけ音を忍ばせてベッドに近づく。


羽毛布団に口元まで覆っている寝顔。


口元が隠れているだけで少しわかりづらいが


ちゃんと眠れているようだった。ちょっと一安心。


一人ぼっちという孤独が襲ってくるのは真夜中だということを、


はよくわかっているから。


だからこそ、心配になった。


寂しさから眠れずにいるのではないか。


孤独から夜の長さに震えているのではないか。


考えていたらだんだん心配になってきて、


それがを動かす原動力になった。


そして、ほっとした。表情を緩めてはそっと身を引いた。


このまま何事もなかったように寝室に戻って眠りに付く予定だった。


しかし、そうはいかなかったようだ。




「…、ちゃん……?」




寝起きのかすれた声。起こしてしまったことを少し悪いなと思いつつも


はゆっくりと振り返って、淡く微笑む。何か言葉が飛んでくるかと思いきや


一番に差し伸べられたのは手のひらで、


は半ば驚きながらも歩み寄って、彼の手に自分の手のひらを重ねてみる。


大きさの違い、硬さの違い、温かさの違い。全てに驚かされる。


手のひらに導かれるままにベッドに腰掛ける


吹雪はいまだに無言のままだった。


けれども指先はしっかりとの手のひらを捕まえたまま離さない。


しばらくお互いそのまま黙っていたが、ようやく吹雪は口を開いた。


ぼーっとした寝起きの口調でゆっくりとつぶやく。




「ちょっとだけ…甘えさせて」




びっくりしたというのが一番。そして徐々に頼られることが嬉しいと思えてくる。


とん、と吹雪のおでこが胸元に軽く触れる。まだ少し遠慮してるってすぐわかる。


でも昨日に比べたら、数分前に比べたらずいぶんな進歩だ。


は空いているほうの手で昔母がそうしてくれたように髪に指を通した。


輪郭を辿るように下へと流していく。少し湿り気を持つ髪。悪い夢でも見たのだろうか。


さっきは安心してしまったけど、抱えているものがなくなることなんてないんだから。


過去は変えられないし、忘れるなんてできないことだけど。


せめて和らげてあげたいと思う。


はずっとずっと長い間髪をなで続けた。


彼が落ち着くまで。彼が自分から離れるときまで。ずっと。




「あり、がとう…ごめんね、急に…」




そっと離れた吹雪。すっと胸元の熱が冷めていく気がして少しだけ寂しかった。


は静かに首を振って微笑んだ。落ち着いたのなら、よかった。


あまり長居してはいけないかな…という気持ちを持ちつつ、


握り締めた指先を解かない吹雪。じっと、指先に目を落としていた。


それをはらうことなんて絶対にしないは、


はらわれる痛みを知っているから。口数は少ないが根はいくつ物思いを持ってる子。


吹雪はゆっくり彼女を引き寄せるとこんどは自分の胸元に彼女を誘い込んだ。


ぎゅっと抱きしめてぽつりと、




「今度はちゃんの番」




とつぶやいた。


腕の中の女の子は目を細めて男の子にしがみついた。














(デコボコを埋めあう僕ら)(まるでパズルみたいだね) inserted by FC2 system