(2021.05.25)(過去拍手掲載夢)
「真冬の恋7題」--冷たくて、暖かいあの季節がやってくる--
―― 素敵お題配布 「確かに恋だった」様
ため息まで白い
高校は同じところに進学した。
けれども違う専攻を受講することにしたのは他でもないの意志だった。
いつもなら無難で安全な道を選びたがる彼女からすれば勇気のいる決断だったと思う。
そんなこんなで彼女がすすんだのは国際交流を目的とした専科。
共通の時間ももちろんあるけど、中学時代に比べたらぐんと減ってしまう。
不安は大きかったに違いないが、それほど大きな決断をさせるくらいにはエイリア学園を倒すために全国を旅したこと、そして世界大会を目指す仲間たちとの出会いは大きかったようだ。
例え慣れている人であっても、どもってしまうほどの緊張しいな彼女。
そんな彼女がクラスメイト達と笑いあっている姿を見るのはこそばゆい感じが半分、寂しい気持ちが残りを占めた。
改札を抜けて階段を上る足が速くなる。
なんせそんな彼女と会うのは2週間ぶり。
アメリカ留学から帰国したばかりの彼女とあと10分後、再会する。
毎日、SNSでのやりとりや通話をしていたと言えど、やはり時差による壁は大きい。
自分のそばをくっついて離れようとしなかった頃が懐かしい。
それを今の彼女に言うと、膨れて拗ねてしまうだろうと思うと思わず頬が緩んでしまう。
地上へ出ると見間違えることのない彼女の姿。
そして、自分を不機嫌にするには十分すぎる情報が一緒に視界に入り、笑みが深くなる。
「おまたせ、」
にこり、と張り付けた笑みを浮かべて手を引くと、はふわりと柔らかい髪を揺らして振り返った。
しかしその表情は僕の顔を見るなり一瞬で崩れることになる。
きょとん、とした間の抜けた表情。
ぱちぱちと瞬きをして僕の表情がいつもより三割増しににこにこしていることを不思議がっている顔だ。
そんな隙だらけな顔しちゃってさ。
内心小さく呆れと自分への後悔のため息を吐いて握りしめる冷たい手に指を絡めた。
「あ、あの、士郎君」
「早かったんだね。もう手がこんなに冷たい」
「うん、一本早いのに乗り換えれたから」
「言ってくれたら迎えに来たのに。ほら、温かいところに行こうよ」
何か言いたげな彼女を無視して強引に話を進めた。
にこにこ、にこにこ。
押しの弱い彼女は僕のリードに逆らうことなく一歩僕の方へと近づいた。
それでもが後ろ髪引かれた様に今までいた場所を振り返ったのにはさすがに驚いた。
内気で引っ込み思案。
中々自分の気持ちを言葉に出来なかった彼女。
疑うことを知らず…って言うのは今も同じみたいで、僕はが切り出すよりも早く先手を打つ。
「僕の彼女にまだ用ですか?」
「えっと…」
「いや、行こうぜ」
「あぁ」
の後ろにいたのは2人組の学生の姿。
戸惑うをよそに、やっぱりナンパの類だったかと舌をうつ。
こんなことならもう少し早い電車に乗ればよかった。
「よかったのかな」なんていう彼女は自分が今の今まで口説かれていたことにも気づいていないだろうけど。
「何の話してたの?」
「えっと、このあたりの美味しいお店教えて欲しいって。地元じゃないから詳しくないって」
「はぁ、そういう事。…本当に考え物だよね、その素直すぎるところ」
「え?…あ!でもナンパとかじゃないと、思うので!」
「どうしてそう言いきれるのかなー」
握りこぶしを作って自信満々に言う彼女に軽いめまいすら覚える。
信じやすいところは昔からそうだった。
敦也がそれを面白がってよく揶揄っていたし、何度も騙された。
その時は「もう敦也君からかわないでよ」と頬を膨らませて怒って見せても、次同じことを言ったら「え…そうなの」と信じ込んじゃう子。
まぁそれが可愛いところでもあるんだけどさ、と自分なりの着地点を見つけて久しぶりの再会を噛みしめる。
「僕の彼女はとっても可愛いから、変な虫がつかないようにちゃんと見てないとダメだね」
「か、かわ…!」
「ふふ、そういう反応も可愛いよ」
「…そんな事ないもん」
そんな事あるもんと口調を真似して言うとさすがのも恥ずかしそうに「もう、意地悪」と呟く。
耳まで赤く染めるその姿が愛しさを増長させてしまっていることに彼女は気づいているのだろうか。
ふわりと柔らかい髪を耳にかけて、その手できゅっと僕の手を掴む。
とくん、と胸が弾んだ。
「でも、士郎君に可愛いって言ってもらえるのが一番嬉しい…」
「………」
あぁ駄目だ。
この可愛すぎる生命体を今すぐどうにかして欲しい。
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ぽちり