(吹雪)snowdrop番外編(風になって)














 To the wind














はぁ。はぁ。荒い呼吸を繰り返す。こんなのずっと前から。


喉の奥がぜえぜえとなってるし、呼吸を整えようと


肩が必至こいて上下運動を繰り返していた。心臓が速くて、一気に止まってしまいそうで怖い。


ホイッスルの音が微かに聞こえて、右足から崩れるようにフィールドに崩れた。


地面と接触した部分が自分の体温より熱い…気がする。


まるで自分の体温と地面の熱が混ざり合っていく感触。うう、気持ち悪い。


!」「深澤!」と自分を呼ぶ声が聞こえて


ああいけない、立たなきゃ、と自分を奮い立たせる。


両腕に力を込めて上半身を起き上がらせる。腕に砂がいっぱいついて少し痛かった。




暑さ負けかなぁ。そうだ、今九州にいるんだった。そりゃあ北海道とわけが違うよね…あはは。


でも、それを言っちゃうとただの言い訳になっちゃう。だって、同じ北海道民の


士朗君はまだ余裕をもち合わせてたもの。タフだなぁ。


もちろん私がへなちょこってこともあるだろうけど。あはは。


今日が練習でよかった。…いや、よくないけど。


少なくとも本番の試合中に倒れたもんなら


監督にすぐに選手交代指令を下されるもの。それだけは嫌だ。


だって。




「大変、頭熱い…。日陰に行こう、きっと……!?」




ずっとずっと、彼と皆とサッカーしてたいんだもん。


くらり、と士朗君の顔がぼやけて、次第に真っ暗になった。









 +









久々にオカリナ吹きたいな。ああでも、ずっとサッカーばっかりで


ずっと練習してなかったから下手になってるかな。


オカリナを持つと自然とお父さんの事を思い出す。お父さんが教えてくれたの。


雪原の適当な場所で音を風に乗せる。一面の雪世界の中


目を閉じて吹くとまるで妖精になったみたいに感じるんだって。


風に乗って流れる音。耳に届いて心ふるわせて。まるで踊ってるみたい。


そう言ってお父さんは少し照れた風に頭をなでてくれた。嬉しかったなぁ。


風を全身に感じる。指先を水みたいにすりぬけていく。頬を優しくなでて


私の髪をふわりとかき上げて、まるでおでこにキスされるみたい。優しいくちびる。


一陣の風になって、遠く遠く。君とならいける気がしたの。遠く遠く。




「風になろう」




彼は言った。眩しくて羨ましくてかっこよかった。なんて。言えないけどね。


ああ。風が気持ちい。ほっぺたの熱がだんだん落ち着いてくる。


おでこの冷たさ。これは……氷。


…え?









「あ、ちゃん目が覚めた?」




ぼんやりしてた意識に人影が映った。あ、マネージャーの秋ちゃんだ。


おでこに乗せられた氷を沢山入れてあるビニール袋。大分氷が解けてほぼ水状態。


秋ちゃんの片手にうちわがあるのを見て


ああ、仰いでくれてたんだ、とすぐに気がついた。


申し訳なくなって起き上がろうとした時ずん、と頭に鈍い痛みを感じた。


無理しないで…と冷えたスポーツ飲料片手に座るのを手伝ってくれる。


些細な気遣いに感謝しつつ受け取った飲み物を少しずつ口に含ませる。うん、ひんやり。


ふとベンチからフィールドを見て誰もいない事を知り、


ああ練習は終わってしまったんだとがっかりした。空は赤色に変わりつつあった。




「サッカー好きだって気持ちはわかるけど、こまめに休息と水分補給しなきゃ。


 今日みたいに気温が高いとすぐに熱中症になっちゃうからね…?


 それと、今日一日は安静にしている事。走ったり自主練なんてもってのほかなんだから」




わかった?と強めに言われてびくっとしながらもうんうんと頷く。


そっか…熱中症になったんだ。みんなに迷惑かけちゃったな。




「最後に、吹雪君にはお礼言っておく事」


「…?(こく)」


ちゃんが倒れた後、僕がもっと早く気付いてあげていたら…なんて


 すっごく心配してて練習にならなかったんだから。


 普段ならあり得ないケアミスの連続で」




だ れ の せ い ?


と問われてはっとなった勢いよく立ちあがる。たった拍子にくらりとしたけど


そんな事はともかく今は彼に会いたい。早く早く。疾風ダッシュで。




「こらー!まだ走っちゃ――ってもう!聞いてないんだから!」




キャラバンのある方へと走った。外の窓から中を見つめて


居ないことを確かめていそうな場所を捜す。そしてまた走った。


いた――。


風丸君と円堂君と三人でお話ししている。


普段なら他の人がいると絶対に話しかけられないのに、今回は違った。


彼の片手をぎゅ、と両手で握りしめると透き通る彼の眼が私を捉える。


大きく見開いて「もう起きて大丈夫なの?」


「具合はどう?まだ悪い?」と質問攻めにした。


私は一瞬意を決したように唇を固く結んでから、ゆっくりとくちびるを開いた。




「ありがとう」




風を震わせて、君に届け。














(風早君とキャプテンには悪かったけど)(僕はぎゅ、とを抱きしめた) inserted by FC2 system