(吹雪)snowdrop番外編(夕日)














 Evening sun














一番窓際の後ろから二番目。そこがの席。そしてその前が僕。


春から夏にかけてはさわやかな陽気に眠気を誘われる場所。


授業中夢見ることもしばしば。暖かい日は窓を開けて頬が風をなでる。


英語教師の声と重なって安眠効果が倍増するこの位置になったのは


最初に言うべきだとは思ったけど計画じゃないよ?ちゃんとクジで決めたんだから。


(そりゃあ目の悪い子がの前の席になったから、


 偶然 変わってもらえたってのはあったとしても)狙ってなんか…人聞きの悪い。




そして今は放課後。生徒たちは部活なり帰宅・寄り道なりで


早々と教室を立ち去ったのでこの教室にいるのは僕とのみ。


なんかこういうのってどきどきしちゃうね。


グラウンドからは部活動を開始していて陸上部やら野球部やらの声が聞こえてくる。


開け放たれた窓。カーテンが風に舞い踊った。


二人の頬を赤く染め上げる赤い夕陽。


一日の終わりに何かを予感させるなんともいえぬムード。





もしかして妙に意識しちゃってるのは僕だけなのかな。も実は


“誰もいない放課後の教室に二人っきり”なんてベタベタなシュチュエーションに


どきまぎしてたりして。…。あ、やっぱり撤回。鈍感に限ってあるわけない。


あったとしても「部活一緒に行くの待っててもらってるから


急いで日誌書いちゃわないと。ああ、でもゆっくり書いたら


もっと士郎君と一緒にいれるのかな…はう。でも待たせちゃうのは悪いし…


…それに、こんなに近くで見られちゃうと緊張しちゃうな。字、震えちゃうよ」くらいじゃないかな。


大分捏造はいったんじゃないかって?いいのいいの。通じあってるのさ、僕たち。




「ゆっくり書いていいよ。どうせ顧問の先生、職員会議で遅れてくるんだから」


「…!」




はっとが顔を上げる。ほっとしたような表情でこくこくと頷く


ほらやっぱり少し急いでた。はくるくると器用にシャーペンを回しながら


女の子特有の癖のある丸っこい字で事細かに今日の連絡事項から時間割から書きこんでいく。


ホントまめだなぁ。こういうの几帳面っていうんだっけ?流石A型さん。すっごく丁寧さん。


部活の時もそうだけどこういった日直やら委員会やらにもは器用さを発揮している。


字を乱して書くくらいなら休み時間や放課後を数分犠牲にしてでも丁寧に仕事をこなすタイプ。


(だから休み時間を優先するような人たちに仕事を押しつけられちゃうんだよ、


っていったらは困ったように笑ってたっけ。)


でもだからって優等生という傲慢さをひけらかすわけでもなく、謙虚な姿勢をみせるから


周りに対する人受けもいい。ただ話すのが苦手、という面ではいまだに渋ってるみたいだけど。




「ねー




特にようがあったわけじゃなかったけどいつもの調子で呼んでみる。


は一旦日誌から目を離して小首をかしげて見せる。あ、大した用じゃなかったのに。


くるくる、ペンを回す。目が合う。どき。僕って純情すぎ。


夕日が指しての頬が赤く染まって見える。なんか風呂上りみたいでまた、どき。


ううん。きっと今の僕の頬も赤いんだろうな。だって、触らなくたってわかる。


この“誰もいない放課後の教室に二人っきり”なんてベタベタなシュチュエーションに


どきまぎしてるのは僕の方だ。これだから純情は。




「書き終わってからでいいんだけど」




伏せ目がちな瞳。長いまつげが頬に影を落とす。どき。


真っ白でふわふわな髪の毛を片耳にかきあげるしぐさ。どき。


勿体ぶっていうのを躊躇う僕の言葉をじっと待つ瞳。どき。


どきどき。息をするのも忘れちゃいそう。




「キスしよっか」




ほっぺがあつい。のほっぺもきっとあつい。


いいじゃん。一緒に夕日のせいにしちゃおうよ。




「だって僕たち、もうそういう関係じゃない?」




いまのは僕の意地悪。ごめん。こんな言い方したら戸惑うことぐらいわかってる。


無理強いするつもりはないけど我慢するつもりもないんだ、ごめん。


だって。は嫌がってない…みたいだし?




「は…ずかし…ぃよ……」


「ふふ。手、貸して」


「…??」




は素直。くるくるしてたシャーペンを置いて右手を差し出す。


僕は彼女の手首をゆっくり自分の方へと引き寄せる。途中で力が入ったのが伝わる。


ちらりと優しく微笑むとは僕にしか見せない優しい表情でされるがままにしていた。


の華奢な指さきが、僕の胸に、触れる。どきどき。どきどき。




「ね?」


「…、」


「僕だって、すごくどきどきしてるんだから」




手首を解放してあげるとはそっと僕の胸にあてた右手を自分の胸元へとあてた。


左手でそれを包み込むようにして心音を感じているようだった。きっと。君も同じなんだ。


ぎゅ、とが握りしめたのを合図に僕は腰を少しだけ浮かせて顔を近づけた。


吐息があたる距離。


より五感が研ぎ澄まされるように、目を閉じよう。


甘くて、優しくて。僕だけに与えられるご馳走。


カーテンの奥で影が重なっていた。














(もうちょっと教室でゆっくりしてこっか)(のその表情、皆に見せたくないしね) inserted by FC2 system