(吹雪)snowdrop番外編 (私は待つよ)














 I wait.














ざざーと窓の一枚外は雨。雨なんて北海道では珍しいって思うかもしれないけど


夏場はちゃんと雨だって降るんだから。じめじめしてるしサッカーできないしで私は嫌いだけど。


まぁどっちみち部活ができないから私たちはドンヨリ。


あ、私たちっていうのは私と目の前にいる士郎君のことです。


そして部活できないっていうのは試験1週間前を切ったので部活動ができないのです。


それにこの雨だし…むぅ。ちらりと窓の外を見る。ああ、大分ひどくなってきたかも。


雷…とか、平気かな…。こっそり士郎君を盗み見て私は紛らわすようにリモコンを手に取った。


パチンと静電気がはじけるみたいな音が聞こえてテレビがつく。


確か…と視線を宙に踊らせながらフットボールフロンティアのチャンネルを探し出した。




「ふふ…手が止まってるよ、


「(どき)」




慌ててシャーペンを握りなおす。試験範囲の対策問題に目を通しつつカリカリ。


テレビをBGMに時折ちらみして白紙を文字で埋めていく。




『フ…フットボールフロンティア全国大会決勝ッ!ゼウス中が雷門中を圧勝しています!!』


「…」


「へぇ、ちょうど決勝なんだ」




士郎君はどうか知らないけど自身他校の状況や知識といった物はあまり持ち合わせていない。


一番大きな理由はまだ「サッカー部」を立ち上げて間もないということだろう。


士郎君がキャプテンになることを名乗り出て彼は私を副キャプテンに任命した。


思えば一年生の頃立ち上げてすでに1年。練習方法とか時間とかは


小学校やもっと小さなころに所属していたクラブチームのものを参考にしつつ。


私も数年間サッカーから離れていたせいでブランクもあって、


体の成長とか力の加減とか新しい課題もたくさんあって。


でも、今は楽しい。それに、好きなんだ。サッカー。


君がやってるサッカーだから余計…なのかも。えへへ。


パスが通った時、上手くカットできた時、何人もかわせた時。


全部が全部上手くいくなんてこと勿論ない。むしろ上手くいかないことの方が多いしね。




「…サッカー、したいな」




ぽつり、と口から洩れた言葉。一瞬自分でもどきりとしてしまう。


咄嗟に手で口を覆ってしまいそうになる自分に気がついて落ち込んでしまった。


まだ、あのトラウマが消えない。


シャベッチャダメ、フユカイニサセチャウ、オコラセチャダメ。


ちらりと士郎君を見るといつも通りの彼がそこにいて。


自分の不甲斐なさに自己嫌悪。




「いつか」


「…?」


「あんな緑が生い茂るグラウンドでも、サッカーしてみたいね」


「…うん」




きっと気持ちいいはず。風になれる。感じあえる。


なんて…素敵なことだろう。




…プツン。


――ピカッ!!!




「ッ!!」


「…!」




一瞬の雷鳴。そして轟く雷音。ゴゴゴゴと心の奥までも震わせる。


電線が切れたのかもしれない。一瞬にして部屋の明かりも、テレビも消えた。


後の静けさ。


静寂。




膝を抱えて身を縮める。


震える全身を抑え込む手のひらは腕に食い込む。


カタカタと奥歯が音を鳴らす。


大きく開いた瞳はまるで焦点が合っていなかった。




「…」




起きてほしくなかったことが起こった。心配していたことが起こった。


はただ何もすることができなくて。


でも、何か力になりたくて。


自分が折れてしまった時、彼がしてくれたように。


少しでも、支えになりたくて。


――背中を抱きしめた。




「大丈夫」




言葉を発するのは、正直怖い。


私の声まで震えてしまいそうになる。


でも。


言葉が持つ力がすごいことも私は知ってる。


そしてその力が心の支えになることも。




「近くに雷が落ちただけだから…大丈夫」


「…、……」


はここにいる、から。置いて行ったりしないから…」




士郎君の背中から心臓の音を聞いていた。ずっとずっと。長い時間。


でもホントは数分だったのかもしれない、数秒だったのかもしれない。


だけど士郎君にとってはもっともっと長く感じたに違いない。


は自分よりも少し大きな彼の背中を抱きしめて、グレイの髪に口元を埋めた。




「晴れたら、サッカーしたいね。そしていつか…あの場所で一緒にボールを蹴ろうよ」




それは近い未来。草原のフィールドでプレーできるだなんて二人はまだ知らない。


だから夢を見る。夢を見て、現実のものにできるように、毎日過ごしていく。


ぎゅ、と士郎君の手が抱きしめているの腕に触れる。


ゆっくりとほどくと、振りかえった士郎君に真正面から抱きしめられた。




「ごめん…完璧じゃ、なくて」




力が込められる。彼にしては、すこし強い力で少し痛かったけど、


は目を細めて最後の最後の、振りしぼった小さな声で「待ってる」とつぶやいた。














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