(泉・おお振り原作沿い・野球部ヒロイン)









 ほろにがホリック 0









彼女、は暗いところが苦手だ。

思い出すんだと。

イロイロ。

あったこと。

鮮明に。

脳裏に焼き付いてるんだそうだ。



あれが3年前、中一の頃。

始まりはもっと前からだったと思うけど。

事件の後も始めの1年は部屋に明かりがないと夜も眠れなかったらしい。

深夜番組を付けて、それが砂嵐になったらi podの音源に切り替える。



そんな生活を一年も続けて。

当然、良質な睡眠ってやつはなくて。

朝起きた時のあの倦怠感と、何もなかったことの安堵を噛みしめて

毎朝熱いシャワーを浴びて学校に来ていた。

…周りのクラスメイトには一切そんな素振りは見せずに


2年も経つとテレビや音楽を使わなくても眠れるようになった。

そしてちょうど1年前の中3に上がるころ、部屋を暗くしても、

そして音がなくても眠れるようになった。

それでも時折思い出しては震えて泣いて、携帯の連絡先画面見つめて

ボタン押したくて、やめて、でもすがりたくて、震えて、画面は暗くなる。

繰り返しだった。


『……ぁ、?』


声を聴くと、ぷつりと糸が切れる。

寝起きのかすれた声。

涙がボロボロこぼれる。


「こ、すけ」

『…。待って、今行く』

「ぁ、こうす、け…」

『大丈夫、このまま繋いでっから』

「うん…」


電話越しに聞こえる布団をまくる音。

眠そうな吐息。

あくびの声。

それでも廊下歩く音が聞こえて、クロックスか何かに履き替えて、

扉を空けて、10歩も歩けばの家。

ガチャリと鍵を開ける。


「こうす、け」

「(起きちまったか。最近よかったのにな)」


通話を切って、手を握る。

鼻も真っ赤で目だって泣きはらしてる。

こんな姿見せるのは俺くらいだろう。


「ん、大丈夫。寝るまでいるから」


微かにうなずく。震わせる肩。

額が胸元に埋まる。寄りかかる頭。少し熱い。

手持無沙汰になった右手は自然と彼女の頭に向かった。

そして、ふと考える。


「(にとって俺って――)」


幼馴染か、野球友達か、それ以上のものなのか。


「(正直、俺だけ頼られてるって、悪くないしな)」


時計を見ると夜中の3時。

我ながらよく着信に毎度こう気づく物だとため息が出る。




「(ほんと、不安定)」




――彼女も、この関係も。


胸元にぐっと重みが増す。

寝たな。

枕の位置を整えてその上にそっと下す。

目じりに溜まった涙を指でふき取ると、あくびを一つ。

役目を終えた俺は明日の入学式に備えてもうひと眠りしようと

彼女の家を後にした。




 +




「じゃ、行くわ」


そういうとキッチンから顔出したおふくろが「後でね」なんていう。

入学式。

例年卒業式の桜の木は丸裸、入学式の前日は雨のため花が散るっていうのが

決まっていたが今年は稀に見る桜溢れる入学式だ。

天気も快晴。準備も万端。


玄関でつかんだチャリの鍵を指しやすいように持ち直す。

朝露で少し湿ったチャリのハンドルを握ったところでそれに気づいた。


「(アイツ、先に出たのな)」


思い浮かべるのは幼馴染のぶっきら棒な顔。


「(泣いた後はいつもこーだもんな。ほんっと、不器用っつか)」


カゴの中に入っていたビター味のガルボを鞄に詰め込む。

彼女なりのお礼とお詫びのつもりらしい。

学校で会えば「こーすけ」呼びも「泉」呼びに変わるのだろう。


「(同じクラスに、なんて流石に運命展開すぎか)」


チャリにまたがり漕ぎ始める。

高校生活のスタートなのだ。


同じ9組の教室で再開するまであと30分。














(同じクラスとか、マジな奴じゃん)(やっべ、楽しくなりそ) inserted by FC2 system