(泉・おお振り原作沿い・野球部ヒロイン)









 ほろにがホリック 01









朝、日が昇るころ起きる。

大体5時とか遅けりゃ6時。

洗面して、歯を磨いて、ジャージに着替えたらタオル巻いて、

イヤホン耳に押し込んで使い込んだランニングシューズを履いて出かける。


朝特有の水分を多く含んだ空気を肌いっぱいに浴びて目を覚ます。

1時間ほど走ったら一旦帰宅して熱めのシャワーで汗を流して、

洗濯物を干したり、皿を洗ったり、ごみを出したりする。

それから朝食を手早く済ませて、7時40分には家を出る。


これがの学校がある日の朝の日課だ。

だが。


「(春休みってホント暇。早く部活したいのに)」


生憎にも今は春休み。

とおの昔に高校の進学準備を整えてしまったは余暇を持てあましていた。


「(泉とキャッチボールしたいけど、今日家族で出かけるって言ってたしな)」


ふと思い浮かんだのは幼馴染の顔。

なんだかんだ素っ気ない顔しつつ付き合ってくれる。

…自分の『コンプレックス』にも根強く付き合ってくれてるんだから

もしかすると彼には「様」づけで呼ぶべきなのかもしれない。


「(まぁ、そんな事したって溜息一つであしらわれるんだろーけど)」


そこでふと思う。


「そーだ。グラウンド見に行こう。そうしよう」


もしかしたら気の早い野球好きがいるかもしれない。

時計は午前8時を指している。

は出発までの時間をご飯の作り置きをする時間に決めた。

何パターンか作って冷凍庫に入れておけばこれから楽になる。

一人暮らし生活も、高校生活も、野球も全部楽しまないと。


そうと決まれば善は急げだ。

は献立表をぴらぴらとめくりながら、冷蔵庫を開けた。




 +




球場につくと早速二人のユニホーム男児の姿があった。

入る際に「こんちわ」と挨拶するとその声に1人はじろりと、

そしてもう一人はにかな視線を返した。


「ちわ、西浦の人ですかー?」


色素の薄い短髪の男の子が言う。

この時期のユニフォーム…きっと経験者だろうな、と予想する。


「春から一年生です。って言います」

「あっ、ならタメじゃん。俺栄口勇人。で、こっちが…」

「阿部隆也。同じく一年。…さんってもしかしてシニア出身?」

「詳しいね。阿部も?」

「…まぁ」


どこだろう、当たったことあるのかな。

そう呟くと、それに反応してか阿部の顔が曇ったことに気付いて

はこれ以上シニアについて掘り下げることをやめた。


「…同い年だし呼び捨てタメでいいよ」


そう言えば先ほどきつい目つきで睨んだ黒髪の阿部、は「おー」と返す。

目つき、かな。睨んでいるわけではないらしい。


「グラウンド整備、手伝う。春休み暇してたんだぁ」

「いいの、汚れるよ?」

「ジャージで来たから大丈夫!泥まみれ汗まみれは慣れてるし」


そっか、と栄口は笑う。

それからはベンチに荷物下しておろしていた髪を上にまとめ上げる。

伸ばしていたつもりはないが、引退して手つかずのままだと

いい加減うっとおしいほどに伸びてきた。

余ってる軍手を借りて雑草抜きに精を出す。


「栄口も経験者?野球部?」

「俺もシニア。俺はよわっちぃトコだけど」

「なら同じ硬式経験者だ。二人ともえらいね、春休みからグラウンド整備なんて」

「別にえらかねぇよ」

「そう?」

「そういうさんだって」

「私は早く野球やりたくてさ。あー、久々に振りかぶりたいなー」


低い姿勢での作業はなかなか足に来る。

は時折腰をぐっと伸ばし、空を仰ぐ。


「好きなんだ、野球」

「うん、いいよね」

「シニアじゃ投手だっけ」

「うん。ってか阿部まじ情報通じゃん。そんけー」

「からかうなっつの」


そういって、阿部はすっとを見やる。


「(男に混ざりながらも3年間浦和リトルの投手務めたヤツだ)」


三人がかりでの除草作業は割とすぐに投球スペースを作り出した。

これから内野、外野と整えていかなきゃと思うと骨が折れる。

流石新設したばかりの野球部だ。

歴史がない分、上下関係はないがこういった苦労は今後多そうだ。


「ここ終わったら、投げてみる?」


の手が止まった。

暫く真顔で見つめるものだから時が止まったかとさえ思わせるほどだ。

そして一気にばっときらきらと目を輝かせて阿部を見る

尻尾があれば全力で振られていただろう。


「え!捕ってくれんの!?」

さん喜びすぎ(そんなに投手好きなんだなあ)」

「いいよ。俺、捕手だったし。の球捕っときたいっていうか」

「まじ、えっ本当に!?すっげぇ嬉しい。わー、待って、超肩作るね。わー!」

「張り切りすぎだろ」


舞い上がるに突っ込みを入れる阿部。

その光景に栄口はブフッと噴き出した。

はまるで子どものようにはしゃいで、エナメルバッグの中から

使い古したグローブを取り出す。

肩慣らしを栄口に手伝ってもらい、久方ぶりのマウンドに立つ。


、球種は?」

「ん、ストレート、スライダー、カーブ、チェンジアップ、シュート…」

「おま…」

「でもま、真っすぐでも120は出ないし、速さでは男子に負けちゃうんだなぁ」


足場を整える、

阿部からボールを受け取ると一気に集中し、先ほどまでの子どもっぽさが消えた。


「んじゃま、いっちょ投げるか」

「おっし、こい」


阿部の返事でふっと息を吐きだす。

ボールの感触、風を切る音、ミットに届く、間。

すべてが気持ちいい。

あぁ、好きだな野球。

また夢中になる。


「もう一球!」


気持ちよさが体をめぐる。

の球を受けながら、阿部は内心複雑であった。


「(くっそ、構えたとこくるな。流石浦和リトル。だけど……)」


女子は、公式戦には出られねーんだぞ。














(なんて宝の持ち腐れなんだ…!)(さんイキイキしてるなー) inserted by FC2 system