(泉・おお振り原作沿い・野球部ヒロイン)









 ほろにがホリック 02









「機嫌いいじゃん」

「おっ、泉。おかえり、いいの見つかった?」


鼻歌交じりでチャリを止めているとお隣住みの幼馴染が声をかける。

「まーなー」という軽い返事の後に、家まで持つとカゴに入れていた

食材やら日用品やらの袋を手に取る。


「いいよ泉。自分の分だし」

「持つって。たまに食わせて貰ってるし」

「ははサンキュ。またご馳走しなきゃだ」


エナメルを斜めがけして、自分も小袋を持つ。

よいしょ、と背負い直したのを見て泉が声をかけた。


「どっか、行ってた?」

「うん、西浦」

「……今日なんかあったっけ?」

「ないない。グラウンド見に行ったんだ」


買い出しもあったし、暇だったしさ、と笑う。

袋を持ち直して鍵を取り出そうとしていると、無言で泉は袋を持ってくれた。

さりげない優しさにほっこり心が温まる。

そういうことさっとできる彼はきっと高校でもモテモテだな。


「誰もいねーだろ。春休みだし」

「それがねぇ、グラウンド整備しててさ手伝ってきたんだ」

「春休みにィ?」

「二人いたよ。経験者だった。あっ捕手の子いてさ捕ってくれたんだ」

「ふーん(…だから機嫌いいわけね)」


泉は内心そう呟き、荷物を机の上においた。

彼女の家は物がごちゃごちゃしておらず、いつ来てもきれいだ。

1人で住むには少し広い部屋。

時折こうやって出入りしているわけだが、

仮にも異性である俺をこんなに家に入れていいのか、と時折不安になる。


「お前、さ」

「んー?」

「野球部はいるんだろうケド、男不用意に家にいれるなよ」

「え、うん。流石に高校生相手に何かあっても勝てないしね」

「(あ、そういうのはわかってんのね)」


ならいいけど、と呟いてはっとなる。


「(俺は、あれ、この場合どうなんだ?)」


頭を抱えて一人苦しんでる中、隣でが何してんのと笑う。

お前のせいだよ!と内心突っ込むが彼女に言えるわけもなく…。


「荷物持ちサンキュ。お腹すいてる?朝作ったぶり大根あるけど」

「喰うー。親に連絡するわ」

「ほーい。温めてくる。食べたらマリカしよーよ。マシン追加なったんだよね」

「おーいいね」


そんな他愛もない話を重ねる。

色気も何もなさ過ぎて泉は本日何度目かのため息をついた。

幼馴染、って、こんなもんなんだろうか。

思春期って面倒くせぇ。想いを伝える勇気もないけど。


「(ってかも普通にレンアイしたいとか思うんかな)」


そうすればこんな風に自分も上がり込めなくなる。

そもそもこのポジション譲りたくはない、と思ってる自分はもう

相当なほどに彼女のことが好き、なのだろう。

わかってはいる。


「(なんつーか。こんなに近くいんのにすっげぇ遠いってか)」


けど、気持ちに気づいたところで本気なだけに慎重になる。

深くて長いため息が静かにこぼれて消えていった。


「(いつか絶対気付かせるけど)」


内に秘めた思いを今更焦って溝に流すことはない。

が野球部に入るなら変な虫がつかないようにしないと。

本人の知らないところでそんな根回し計画が進められていた。




 +




暇さえあれば休み中グラウンドに通った。

おかげで雑草まみれだったグラウンドもだいぶ茶色が見えるようになってきた。

毎回ある程度の作業が終わるとキャッチボールをしたり、

阿部に球を捕って貰ったり(むしろそっちが目的だったり)と楽しんだ。

気づけば入学式の前日となっていた。

今日は道具の手入れしとこうかなぁなんて考えながらフェンスをくぐる。


「阿部ー、栄口ー!ちわー!」


いつも通り入っていったが、雰囲気がいつもと違うことに気づいた。


「ちわ。さん、ちょっとちょっと」

「え?…あの、こちらは?」

「百枝監督。監督、さっき話してた…」


栄口に手招かれるまま歩み寄ると見知らぬ人物が二人いた。

長髪のスレンダーな女性と、眼鏡をかけた男性。

…男性の方は確か推薦入試があった際に試験官をしてたと、思う。

は反射的に帽子を手に取って頭を下げた。


「初めまして、百枝まりあです。硬式は今年からの新設野球部だけど、宜しくね」

「はい。です。こちらこそ宜しくお願いします」

「こっちが数学教諭の志賀先生」

「僕とは初めまして、じゃないね。試験ぶり、西浦へようこそ」

「宜しくお願いします」


百枝は感極まった様子での手をばっととり、力強く握りしめた。

正直、女の監督に会うなんて初めてだ。

どんな、練習していくんだろう。期待が胸にぱっと花咲かせる。


「単刀直入で聞きたいんだけど…」


にっかり笑うモモカン。

自分の手を包むように握る温かさに、は目をぱちくりさせた。


さんってマネジ希望?」

「(ひぃ直球ー。俺らでもそこまで聞けなかったのに)」

「(でも確かにそれって今後の部活に影響するような…)」

「そうですね…ぶっちゃけて喋ってもいいですか?」

「いいよー」


阿部、栄口もの言葉を待った。

はちょっと考えて言葉を選んでからしっかりと言い放つ。


「正直練習には参加したいです。男子に混ざってどこまでやれるか

 自分でもわかんないけど。公式戦には出られなくても、練習試合とかは

 いいわけだし、あわよくばって思ってます。ケド、公式戦が始まって、

 チームとしての練習が始まったら、補佐でも、情報収集でも

 サポート側に回って役に立てたらと、思ってます」


いくつか投げれるから、バッティング練習台にもなれるし、とは続けた。

それを聞いたモモカンはぶるりと体を震わせた。


「わかった!ならそのつもりで練習組むね」

「はい!(なんとなく、だけど…楽しく出来そうな気がする)」


自然と自分の体温も上がる気がする。

ホカホカとした手のひらを自分でも握りしめたときに、志賀先生が

「そういえば」と話を切り出した。


に明日の入学式のことで頼みたいことがあるんだけど…」

「…へ?」


ニヤリ、と笑う顧問の表情にの背筋はぴしゃりと凍った。












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