(泉・おお振り原作沿い・野球部ヒロイン)









 ほろにがホリック 04









「おっ、インチョーじゃん。おーい!」


グラウンドに響く声。

同じクラスの田島悠一郎だ。

まだ高校生活二日目だが、彼は挨拶の時からキャラが強くて

よく印象に残っている。


「田島じゃん。何、見学?」

「おう」

「クラス会、経験者って言ってたよね。ポジ聞いていい?」

「俺?サードで四番!」

「まじ、すっげーじゃん」


そう言ってはボードに記入する。

リトルでは見なかった名前だ。野球部かな、ボーイズかな。話したい。

うずうずした気持ちが胸に湧き立てると同時に阿部が怪訝な顔でこちらを見やる。


「…インチョー?」

「あぁ、学級委員長のことでしょ。ご指名いただきましたー」

「うわ、カワイソー」

「慰めてくれてもいいのよ、阿部クン」

「…ガンバ」

「冷たっ」


茶化すに阿部は本当に面倒くさそうな顔で言い放った。

ホント、優しくない。ひどい奴だ。心のない応援ありがとう。


「インチョーも野球部入んの!?」

「うん、練習も参加しちゃうぜー」

「すっげー!女子なのに?一緒すんの?俺、マネジかと思った!」

「(コイツ超ストレートでいうじゃん…!)」


周りで聞き耳立ててた部員たちが田島の人ことに肝を冷やす。

女子が野球、なんて一般的に珍しいのはわかる。

リトルで三年間も男子に混ざってそんなこと言われ続けている

ものだから、自身免疫が付いている。


「よく言われるー。中学までは一緒にやれてたんだけどなぁ」

「ってか、試合とかでれんの?」

「公式戦は無理無理」

「じゃあ練習試合だけかよー」

「そそ。でも、いいんだ」


悔しさがないなんて言ったら嘘になるが、わかっててこの場にいる。

はにかっと笑うと、田島はぱっと表情を輝かせた。


「インチョーすげえな!」

「(――すご、い…?)」


何が、と聞こうとした時阿部の一言で意識はそちらにそがれる。


「ちらほら集まり始めたな」

「SHRって、やっぱクラス差あるんだろーね」

ー、監督は?」

「泉。ここ場所分かりにくいからって周り見てきてもらってる」

「あーな。んで、代わりに受付してるってわけね」

「そゆこと」

「……」


阿部の言うようにHR終わりのメンバーがちらほらと集まってきた。

周りの集まる部員希望の人たちとボードのポジション表を目で見やる。

正直、人が足りない。

今年から始まった硬式野球部なので、仕方ないといえばそれまでだが。


「泉もインチョーと知り合い?」


さっきの会話を聞いていたらしい田島がひょっこりと顔を出した。


「同小・同中なんだよね俺ら」

「家も隣同士だし」

「幼馴染かよ。んで同じクラスとか超よくね?

 一緒に登校とかしちゃったりとかしてー」

「そういうんじゃないし」

「そーそー」


静かに関係を否定した

それに引っ掛かりを覚えながらも泉は相槌を打った。


「ってかそれ抜きにしてもさぁ!女子と練習するとか在りえなくない?」


ずば抜けて長身の花井はそう言った。

中にはそういう人も出てくるだろう。

予想の範囲内だったのか、は動じることなくすっと見やった。


「出来るだけついてこうとは思うけど、流石に成長期の男子と

 同じメニューは厳しいかも。身の丈に合う練習していきたいって

 監督には話してるし、ちゃんと顧問も通してるよ」

「なんつーか。偏見かも、だけど。髪長い奴が目に入ると気が散るっつうか」

「……」


ぐっと言葉を飲み込む


「髪は、切ればいいだけの話だけど花井が言ってんのはそうじゃないよね」

「あぁ、まぁ…」


ようは出来ない女子だと思ってるわけだ。

一般イメージなんてそんなもんだ。それもわかる。

何か言いたげに一歩前に出た阿部を手で押さえて、話をする。

…わかるけど、腹が立つのもまた事実。


「花井、四番だったんだよね。打席立ってよ。」

「…え?」

「私、中学の時リトルでちょっと投げてたんだ」

「(ちょっとって、浦和の正投手だろうがよ…)」

「論より証拠じゃん?そこらの女子と違うとこ、見せるからさ」

「打席、って…捕手は?」

「俺がするよ。春休み中何度か捕ってるし」

「サンキュ。ね、監督戻るまで(私も言われっぱなしは好きじゃないし)」


ここでやってくなら、わだかまりはないに越したことはない。

投球は見せるもんではないけど、それでもやる気を見せる手段にはなる。


「~~~っ。監督に何言われても知らねぇぞ~!」

「おしっ、決まり。泉ー審判してよー」

「あいよ」

「じゃあ俺内野入ろうかな」

「栄口もサンキュ」


始まる前の部員たちが形になっていく。

泉は審判用の防具を、は自分のグローブをベンチに取りに行ったとき、

泉がそっと耳打ちをした。


「(ホンキで投げるつもりだろ)」

「(え、うん。あそこまで言われちゃ悔しくない?)」

「(…この負けず嫌い)」

「(そうじゃなきゃ女はやってけないんですー)」


減らず口1つ。

幼馴染のおかげでいい投球ができそうだ。リラックスできた。


「(負けんな、)」


一言。目も合わさずに視線だけは遠くを見つめて泉は言う。

はぐっと胸にこみ上げるものを感じながらしっかりと笑った。


「おう…!」


阿部のリードに時折逆らい、喧嘩っぽくなる場面はあったが

花井から3アウトもぎ取った


後日肩まであった髪をバッサリと短く切りそろえており、

花井は自分の発言を後悔したとかしてないとか。









(髪、まさかホントに切ってくるなんて思わないじゃんか…)

(なんでか泉、超睨んでくるんですけど…っ!) inserted by FC2 system