(泉・Web拍手掲載分)









 口実









週に一度のミーティングが終わるとついにやってきたのは試験前一週間という現実だ。

野球部は練習合間の1時間を学習時間にあてて教え合ったり、

今みたいな試験前はファミレスや誰かの家に集まっては赤点回避の為学習していた。

10人しか部員がいない今、一人でも赤点を取れないのが現状である。


『赤点取ったら試合出してあげらんないんだからねぇ!』


顧問の圧力を受けながら涙交じりにそう答えたモモカンをふと思い出す。


「(初心者がいる中正直一人でも欠けたら今後キツイ)」


これからの大会、たったの9人で試合に臨むなんてなんて無謀な話だろう。

野球部員として名を残しつつも、こういう時ばかりは

自分が女として生まれたことが悔やまれる。


「(女子は公式戦出られないしね。まぁ、分かっててやってるわけだけど)」


正直男子と同じ練習メニューは中々堪える物がある。

真夏の炎天下の中、中学時代はまだついて行けていたと思う内容でも

体格の差、体力の差、筋力の差、色々現実を見る。正直。

それでも――。


「(また、投げたいって思う。練習試合だけでもいいから。あの場所で)」


三橋のマウンド病も大概だと思うが、私も負けてないなと自嘲する。

早く練習がしたい。

試験前の為練習がない今、は完全に体力を持て余していた。


「野球したいぃ」


はぁ、と盛大に息を吐いて突っ伏す。


「俺だってしたいっつの。ほら、問3」

「んん…」


がばっと起き上がってプリントに目を配らせる。

シャーペンをカチカチと鳴らすとそのままさらさらと書き込んだ。


「ねぇ、泉」

「何?」

「野球部さ、三橋ン家で集まりあってるんじゃないの?」

「あってるけど」

「そっちいかなくていいわけ?」

「野球部って、も野球部だろ」

「あ、今はぐらかした」


目の前で勉強する泉は相も変わらずプリント見つめては

書き込んだり消したりを繰り返していた。

それを向かいからのぞき込んで助け舟を出す。


「行けばよかったのに。遠慮せずに」

「別に。それ言うならだって行ってねぇじゃん」

「毎週ミーティングの日は自炊デーだもん」

「…いつも思うけどすげえよな、それ」


は親の仕送りと奨学金を使って現在一人暮らしをしている。

親同士の付き合いが長い泉家のそばに住むことで、部活で帰りが遅くなったり

なんかするとご飯なりお惣菜なりでお世話になる日々。

ミーティングの早帰りできる時こそ作らねば、と入学当初より

暇さえあれば自炊し、作り置きを冷凍させている。


「(俺ならあの練習の後、帰って何かしたいなんて思わない)」


まぁ、したいっていうより、しなきゃいけないんだろうけど。


「連絡来てない?」

「まだ言ってんの。携帯見てねぇから知らねー」

「心配してんだよ。付き合いとかそれなりにあるんでしょ、男同士でもさ」

はそんなにあいつらとがいいわけ?」


あからさまな不機嫌でいう。

ちょっと心配しただけじゃん。


「つか部屋ってゲームやら漫画やら誘惑多いんだよなぁ」

「…ここもゲームなり漫画はかなりあるんだけど」

「でもあっちには手作りの夕飯とかついてこないだろ」

「…そうきたか」


目当ては私の手料理だったと。

流石に恥ずかしかったらしく、赤面を誤魔化すように携帯をいじりだした泉にくすりと笑みが浮かぶ。

泉が携帯をクッションに投げ捨てたのと同時に、ブブッと自分の携帯にもバイブが鳴る。

きっとグループラインにコメントでもしたのだろう。


見なくてもわかる。

きっと夜用事あるからとか何とか言ってそっちには行かない連絡。


育ち盛りの食いしん坊さんのために早く課題を終わらせなくてはならない。









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