(泉・Web拍手掲載分)









おあいこ









三橋の家に招かれた。

理由はテスト期間前の勉強の為。

野球部全員を集めて、尚且つお金もあまりかけずに多少の話し声を許容される場所、となると最近は決まってこの場所だった。

初めてきたときは実は三橋の誕生日だったという事で、テスト勉強兼盛大な誕生日会となり顔を真っ赤にさせた三橋がいつまでもご機嫌だったっけ。


「おじゃましまーす」

「ちわーっす」


勉強会が三橋の家で開催されると聞くと、はいつも少し早く集まって三橋の練習場に顔を出した。

同じ投手同士、性別は違えどライバルとして意識しあう関係の二人は隙あらばボールを握りたがった。

はじめは三橋の番。

阿部が指示する位置に見事にボールを命中させていく。

努力のたまものを見せつけられ、のモチベーションは上がるばかり。


「つかなんで阿部いんの」

「ああ?ガヤ。…それを言えば泉だって一緒だろ」

「なんでいるの」

「ガヤその2」

「ばーか!」


三橋からボールを受け取ってストレッチをして肩をほぐす。

阿部が淡々と「右上、ストレート」というのを盛大な溜息で返した。

呼吸を整えて、構える。

フォームを意識して、腕を振りかぶる。


――パン!


「のーこん」

「…っ!泉、ちょっとこれ持ってて!」

「はいはい」


外したのは腕時計と、実は泉にもらったネックレス。

唯一三橋だけは「さん、お、おしい」なんて言ってのけたが、阿部は悪意あるコメントで、泉に関してはノーコメントだった。

しっかりと障害になりそうなものが無くなった状態で再度定位置に立つ。


「2球目」


――パン!


「おー」

「っしゃ」

「…つか、二球目でようやく的に当たるって2分の1かよ。使えねー」

「……」

、さん!落ち着いて!」


じぃっと睨み返すと平然とする阿部。


「負けず嫌い」

「うっさい、ばか泉」

「八つ当たりげんきーん」

「もう!」


阿部も泉も本当にの負けず嫌いを煽るのがうまいらしい。

三橋との交代の的当てゲームは他の部員たちが集まるまで開催された。




 +




「んじゃま、いつも通り英語は俺んとこ。数学は阿部、それ以外は西広かんとこな」


花井の掛け声に部活の時とは違うだるーい返事と共にそれぞれが自分の苦手な分野の勉強を始める。

あるものは対策プリントを、あるものは教科書の練習問題を、そしてあるものは赤の下敷きで用語の暗記を。

ちなみには暗記しつつ、他の部員から質問があればその都度、といったスタイルだった。


「つかいつ勉強してんだよ。チャリ通だし登下校で無理じゃんね?」

「え、普通に授業中。家に帰ると疲れで結構そのまま寝落ちちゃうことあるから、朝早く起きてとかもするかな」

「寝落ちるのわかるー。つか朝練前にベンキョウとかありえねえもん!」

「それが出来ちゃうんだなぁ。…はい、水谷ここのスペル逆。田島はここの漢字間違ってる」

「「あ」」


つらつらと喋っているかと思っていた矢先のそんなニアミスを指摘され、二人は声を合わせた。

2人して消しゴムを取り出し、今度こそは集中し始めたようだ。


「容量だけはいいもんなあ、昔から」

「お、泉…解けた?」

「ばっちり」

「貸して」


ぺらり、と受け取ったのは今回の山である数学の問題集のコピー。

はつらつらと上から下へ目を配らせると、一か所で手を止める。


「はいざんねーん。いつもと同じ場所ー」

「え、うっそ」

「ほんと。泉はマジで見直して稼げる点数が多すぎ」

「……」

「負けず嫌い」

「うっせぇ」


プリントを穴が開くんじゃないかって程睨みつけたって間違いは間違い。

きっと次はもっと意地になってやってくるに違いない。

いつもなら「もういい、やめた」なんてゲームの時はしょっちゅうな彼も、これだけみんなで勉強するという環境が出来ていればそんなことは言わないわけで。

それでも七面倒くささを顔に出す幼馴染の彼にくすりと笑みをこぼし、次の出番が来るまで暗記タイムに戻っていくのだった。









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